コッツウォルズの田園をビール飲みつつ歩く


2006年5月29日から6月5日まで、エコネットワークの英国のフットパスを中心にした ツアーに参加しました。ここにはその中から、わたしが見ておきたかったコッツウォ ルズの田園のフットパスについて、その日のメモと画像を一部記載しました。 ●5月29日(月) 南千歳〜成田〜ロンドン〜コッツウォルズ・ブロックリー 早朝の冥想のさなか、旅とは風土と風土の相互訪問、という言葉が沸いてくる。6時50分空港 の集合なので、家内に頼んで6時15分に出発する。7時45分の離陸、成田発は11時40分だった。 国際線では右隣の男性はチューリヒに向かう飛行機が取れなくてロンドン経由だという。ワー ルドカップの影響が詣でているのかも、と語る。 機内では、都留重人の「市場にはこころがない」を安定した日本の良心を読むような気分で、 全編を眺めた。U先生から借りたものだが、宇沢弘文とならびわたしには輝く哲理に見える。 その宇沢弘文がいう社会的共通資本のフットパスをこのたびはみるのだ。読みながらいくつか 極論をつむいでおこうと思った。ダイオキシンは無害だった、装置産業の片棒を担いだ、21世 紀(1995から)は日本の世紀か、IT革命はなかった(リストラあり)、62pに地域コミュニ ティとITに関する記述があるので、これは帰宅後、ゆっくり読むことにする。保育料の不公 平は、家庭内介護と相似だ‥などなど。 日本時間の10時20分に、現地時間の2時20分に合わせた。8時間としたが、どうも9時間だ。後 に一時間遅らせた。15時40分にヒースロー空港に到着。ミニバスに乗り込んで、コッツウォル ズに向かう。Motor way でオックスフォードに行き、A44でコッツウォルズにいくとか。最 初、法面の緑化など、どこでも見るものだったが、シャスターデージーやエニシダ、サンザシ などが出始め、時がたつにつれ、写真で見た田園風景に変わっていく。しかし、木立の詳細は 基本的に粗放で、根元はブッシュである。これが共感をもてる。   オックスフォードシャーから宿泊地のブロッコリーがあるグロースターシャーに入る。家並み が現れ、英国のにおいが濃厚になる。チャーチルの生まれた館を通る。緩やかな丘と沿道の木 立はすでに夏の深い緑に変わろうとしている。風景は北海道とそっくりともいえる。しかし、 ライラックの開花ぶりを見ると高緯度なのに春の進行は北海道より3週間早いと思う。コッツ ウォルズの沿道風景は、1m弱の大木がドシドシとあり、耕地にはボスケというような茂みが 陰影を持って連なっている。遠景は実に心地よい。畑には時々、キガラシが大面積に現れる。 雨が降り出し、上がり、 The Crown Inn & Hotel についたころは明るい歓迎を受けた。日本 人は初めてだという。Pub of the year に輝いたところらしい。グレートウェスタンというパ ブとベリーという昼食の店も紹介された。棟違いのホテルは一人一部屋で、坂に作った実に凝 ったあずましい部屋だ。トランクを開いて、パソコンを開く。 現地時間で9時半まで辻井先生とパブで飲む。先生は羊の腎臓のソテー、私はプローン。ビー ルを二つ。サクセッションの話、植樹会、北海道、英国の風景、など。さすがに外はまだ明る い。歯を磨いて寝る。日本はもう朝の7時。徹夜したことになる。さあ、本当に寝よう。 9時半に床に付いて1時半に目覚める。2杯のビールが利いて3回トイレに起きる。自分の今をか みしめる。そしてふと「一日の始まりにもつ不安は新しい一枚のスケッチに向かったときの不 安に似ている」と思い起こす。日々最善を尽くすのみ、だ。 ホテルは面白いつくりをしている。外観はレンガ、または石づくりで坂に作られ、私の部屋は 中3階みたいな上のほう。階段を中途半端な回数を数回のぼる。部屋に入るとミゾネットのよ うなつくりで、左はリビング風でテレビ、エキストラベッドが置いてある。右手に天井のつい たツインのベッド。文台がふたつ。そのひとつにパソコンを置いた。天窓がふたつ。 ●5月30日(火曜日) コッツウォルズ滞在初日、さあ、行こう ホテルのあるひなびた町並みにハンギングが楚々と もうすっかり体は起きてるモード。4時過ぎにベッドから起きてティーバッグの紅茶を飲んだ 。沖正弘師のヨガの本を読む。自分が背負いなじんだ風土を、旅というのはよそへ持ち運んで 風土感覚を交歓させるのではないかと思う。旅は気分が高揚するというのは、この風土の出会 いを体と心が喜ぶのではないかと思う。旅先ではいつもそうだが、朝の冥想はいつになく深い ものだった。生かされていることに素直にありがたいといえる。生かされていることは、とり もなおさず必要なものはもう与えられている、と考えていいのだ。 朝の散歩で出会った風景。ベンチの向かいが美瑛的丘。車道と石垣で分離された 小径はもうフットパスだった                 5時過ぎから町を歩く。寒い。10℃を下回っているかもしれない。朝日に照らされた谷の向こ う側の畑がとても美しい。教会のほうへ行くと、地図があって郵便局で打っていると書いてあ る。歩道をくだりいけるところまで進むと行き止まりだった。クラスターのように建物が配置 されている。市街地にマナーハウスを見つけた。宿舎の裏山にも大きなマナーハウスがあった 。こじんまりした町だが、よく整理されていて美しい。宿の入り口にいると、向かいの棟のM さんに手招きされ抹茶をたててもらう。 9時、Moreton in the marsh に向かう。今日は青空市の立つ日で、そこで時間を少し使ってか らフットパスに向かう予定。わたしは一通り見て回ってから、観光情報センターを探した。マ ップでは中心にあることになっているがサインがない。Old marcket ではがきを買った際に女 性に聞いてみると、通りに出てから three door down というのだが、そこはIセンターのサイ ンはなく、域のブランチオフィスだ。もう一度探してみるがやはりなく、通りすがりの通訳の 小田さんに聞いてみた。同じく探せないのだが、オフィスに行ってみると、観光関係の資料も おいてあり兼務しているようだった。 青空市。魚のにおいで立ち止まると、ニジマスのほか、 たら、おひょうなどが、イキが下がったような状態で 置いてあった。すでに匂うのであった      青空市は、雨に驚かない淡々としたあたりに妙に驚いた。雨が降り出してもだれも商品が濡れ ることへの気遣いなどをしないのである。雨が本降りにならないですぐまたやんで晴れること を確信しているふうである。 待ち合わせまで時間がありすぎた。今日はMoreton in the marshからブロックリーにつながる いくつかのフットパスのひとつを選ぶ。当初はほぼ直線的に北西にいくルートだったが昼食の パブがないため、ツアーリーダーのOさんはいったん南西のマチに向かいその後北上するルー トに代えた。10時45分ころに角のスーパー前を出発する。Chipping campden の英国庭園 Hidcote monor garden にいくパーティと分かれる。ちなみにBlockly にもMill dene garden という1ヘクタールのWATER gardenがある。 地味に地味にフットパスに入った。サインは非常に少ない。が、 迷って死ぬことはない(はず)                フットパスのスタート地点は、A44を西へ100mほど戻った場所の町外れだった。はじめは、町 の小路、ついではずれのサイン、とすぐに田園へと飛び出る。大々的なサインは特にないが、 耕地の境界にそってそっと始まった。オートキャンプ場のところでひとつめのスタイル(牛が 逃げないように作られた柵で人がまたいで越す)が現れる。これから、大麦、牧草地、牧場、 ソラマメ畑などを通ったが一番多い耕作地は牧草と牧場だった。沿道には、直径80cmほどのヨ ーロッパナラが随所にあり、辻井先生は200年から250年程度の樹齢でないかと推定している。 このほか、トネリコとかセイヨウトチノキ(ヒルトップハウスそば)、ヨーロッパブナ(ブロ ックリー近く)の大木にもたっぷりお目にかかった。サンザシが実に多い。ヨーロッパ、特に イギリスの本にしばしばサンザシが出てくる理由が良くわかった。今、満開で、真っ白な絡ま りが随所にあり、勇払原野のエゾノコリンゴをずっと大きくした感じである。 木立のある農地を延々と。辻井先生の後姿が絵になるので つかず離れず後ろから            道らしい道はほとんどなく、踏み分けである。大麦の道はひどく、重粘土がぬれてこてこての 泥になってすべり、服を汚す。キッシングゲイトの周りも沼沢地と化している。ドイツと同様 、牧草地は湿地で、wet meadow ということばもあるようだ。草本の植生は、シャクが多く、 1mほどの草丈で真っ白な花を咲かせている。フウロソウ、ギシギシ、キンポウゲ、オロシャギ ク、アザミ、など見慣れた種が多いから、北海道とほとんど変わらない。ドイツに比べると、 種の数はずっと多いように感じる。 しかし、風景は別だ。少し高みに出ると植生のパターンが一目瞭然であるが、単一な耕作地を 太くボリュームのあるボスケが細分しており、ボスケを構成する時折の大木の陰が風景に深み を残している。北海道の岩見沢周辺の水田地帯を見て嘆くことがあるが、どうして、元の大木 の数本ずつをあちこちに残せなかったのか、開拓使の指導もなかったのか。もし、開拓のとき 、そういった保存の哲学をもっていれば、風景の基礎も違ったはずだ。そう考えてきた私の思 いを、目の前に広がる風景が肯定する。 13時15分にBouton on the hill のパブ「Horse & Groom」でビールとスープ、ポテトチップで 昼食をとる。地ビールが2ポンド60、ポテトチップもそれ位するから、かなり高いイメージ。 辻井先生に「ビールの注文は1時半過ぎまで」と教えられ急いでもういっぱいハーフを頼んだ が、うそだった。まんまと乗せられた。「人生の8割はうそ、本気は2割程度で精一杯」と笑 った。そう言えばこの頃、冗談を忘れていた。 耕地の境界などで出くわすスタイルであるが、所有者が変るごとというより、そこに牛が飼わ れているかの要因が大きいようだ。通常はただの柵か植え込みか。「スタイル」はそこを突っ 切る際の道具。 食後は町をぬけてブロックリーに下る。Heart of Englandというフットパスに入ってから、ヒ ルトップハウスの前後にビューポイントがあり、斜面と水辺とマロニエの別世界があった。ブ ロックリーが見え始めた丘もすばらしかった。展望台で写真をとり、斜面でもまさにフットパ スのクライマックスのように町場まで風景を楽しみつつ下った。 マロニエの大木群とサンザシ。北海道の原野のエゾノコ リンゴ的か。右は先生、スタイルをのっこすの図   ここの人はおしなべて親切で愛想がよい。フレンドリーである。朝の散歩でも挨拶してくるし 、笑顔を欠かさない。道を聞いてもにこりとするし、店員も良く教えてくれる。 疲れて、横になってうとうとすると6時。風呂を浴びて下着を替える。GREAT WESTERN という パブに行っているはずなので出かけると、皆さんはすでに集合しており、飲んでいた。フィ ッシュアンドチップスなどだが、フライのほうはほとんど北海道弁のホロクサイ状態。腐れ る寸前のアンモニア臭がするのだ。ああ、もう、食事には期待しないでおこうとあいなった。 2次会はOさんの部屋へ。ここで軽くワインとウィスキーをいただいた。 パブのミックスフライ。こういうのを毎日食べていると 日本食のバラエティとヘルシーさは特別だということに すぐ気づく               15から20kmを歩いたようだ。日常、ほとんど歩いていない自分にはいい運動、いい保養。 ●5月31日(水曜日) コッツウォルズの2日目、フットパス20kmを歩く 4時、鳩の声が聞こえ始めてすうっと目覚めた。昨日の記録をPCに打ってから、ストレッチ と冥想。沖正弘師の本の50Pあたりにあることば、馬は感覚意識、手綱は意、馬車は体、御 者は覚(理性か)、車主は真我という図式を思い浮かべる。深い冥想を味わう。異国にいる感 覚もうすれ、仕事のことも頭にはない。それをトイレに入った折に無理やり思い出してみた。 しかし、遠いところの話に思える。 6時からスケッチブックをもって出かける。素手では寒いほどの温度で、町並み一枚と対岸の 斜面のボスケを一枚描く。ギャラリーは3パーティ、出来は自信がない。樹木の描き方がこま すぎるのだろうか。ディテールを描くなら描く、丸めるなら丸めるの方針が必要だ。この見極 めがいまだ出来ていない。 日が射して気温は20℃。9時前に宿を出て12人のパーティでChipping campden を目指す。昨日 同行した人はみんな英国式庭園へ向かった。今日もフットパスをめぐるのはガイド役のOさん を除けばわたしだけ。初日に買った航空写真のマップで今日はいける。Bridle way でスター トした。麦畑を延々とぬけると対岸の斜面が見え始めた。昨日初めて見た風景が懐かしいよう な、古さを帯びる。感性は維持できない。昨日よりずっと歩きやすく土が乾いている。Oさん が道を間違えたようだ。直進するところを右折して逆戻りした。道は途中、防風林に入った。 Bluebellというユリ科のブルーの植物の群落が林床を占めている。雑木林の間伐地である。ブ ナ、ナナカマド、シラカバ、など。 麦畑を進む ブライドルウェイをずっと縫ってきたのが、突如、草道になる。ルートは個人の道を使わせて もらっているのがわかる。道が右折する角に Northwick estate no right of way と書いて ある。 あるきつつ「いやしろち」の丘歩きだと思う。崩れたヘッジをみると、平板の積み石の間に、 こなごなの小石が埋め込んである。畑はそれでも石だらけである。2日目の歩きでわかったの は、一度入り口を見つければ大体マップ頼りであるけること。今日のコースであれば、空撮の ラフなもので十分である。みちはprivate の場所で車道に出る。高速で走る道は不快だとつく づく思う。 コッツウォルズの雑木林。ブルーベルが咲いていた Broad chipping で有名なパブをみる。古民家があり屋根は草葺である。Chipping campden につく。正面に境界があり、パブ・volunteer に入る。大好きなオランダのビール・グロルシ ュがあったのでそれにした。それとホットドッグ。本屋では地図を買い、夕食の宴会用にパン を4本買う。1時半に、カムデンを出発し、ブロックリーの町が見える眺望の丘を目指す。これ を歩くと、ちょうど町を大きく1周したことになる。 コッツウォルズのイメージ色。右は大人の植え込み。 このごろ、ガーデニングの趣味はこちらの方    コッツウォルズで最も見かける植物は、イラクサ、サンザシ、シャク、ナラ、トチノキ、ブナ など。 Northwick park は100ヘクタールあり、入れない。領主の狩の場か。航空写真では草地と建物 群が見える。 わが出で立ち。袋にはパンと果物 ブロックリーに入り、Oさんは昨日の絶景を今日も味わってもらおうと、丘への遠回りコース を取ったようだ。あざみの丘を登って尾根に出るとそこはブナの林帯が続いていた。直径1m 以上のブナは恐らく2,300年以上の樹齢かもしれない。黒松内にブナが来たのが1000年前 らしく今あるのが200年前程度、それらの直径が50cm前後ということからの類推だ。ブロック リーの防風林のブナを、なで、写真をとり、しみじみと「これを残させた動機」というものを 考えたが、わかるわけもない。しかし、このことは大変気になるし、この判断がわかればこれ からの一手のメッセージになる。 ブナの大木は圧巻。丘の上の陰影の濃く見えたボスケ(木立の帯) の主役はこのサイズだったのだ。            ビューポイントでスケッチを一枚。安野光雅のようにはいかないものだ。もっと、樹木を捨象 しなければならない。まるめてしまうように。いずれ、樹木の描き方を徹底的に練習してみよ う。ネーティブの男女と男性一人とあう。田園のフットパスで初めてあった地元の人である。 英国のフットパスマップは、細かすぎると意味を成さなくなる。現地のサインと併用できない から、踏みわけがない場合は、沢登りで沢がない状態と同じで、地図が読めなくなるのだ。田 園に入ればもうサインはほとんどない。今日は20kmを歩いた。               *フットパスは、大体、想像していたとおりだった。トイレに悩むことはなかった。 必ずしもパブがなくとも、お弁当でも十分楽しめるが、それではただのハイキング になる。パブで人と会う、というあたりが成熟だ。木立のブッシュ「ボスケ」、石垣 のヘッジ、大木の残り具合、などが田園風景を味わい深くして、丘の地形とともにわ たしにとってはイヤシロチだった。どこかユッタリした時間とひと。フレンドリーな 眼差しと笑み。これから目指したい社会のいくつかの側面を垣間見ることが出来た。 農業におちつきとハリがあるように見えるのがうらやましい。農地や農業に対して、 ある「まなざし」さえあれば、そこは心も癒すリゾートに変身する。そうなった時、 自ずとフットパスは浮かび上がってくるような気がする。             (おわり)
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