vol.2

早春の北大演習林を歩く


■そもそも『北大演習林』とは何なのさ?

「演習林」もしくは「北大演習林」の名前で市民に親しまれているが、現在、正式には『北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーション南管理部苫小牧研究林』(フーッとここまで一気に)と名称が変わった。それにしても長い!パソコンにしまったファイル名をディレクトリのトップから7つ下あたりまで一気呵成に読みおろす、そんな感じ。でもさすがにシステムがにおう。いずれ名前が落ち着いて簡便な呼び名が定着する日を待ちたい。で、ここではとりあえず使い勝手のいい古い名前で呼ぶことにする。

 苫小牧における「演習林」と市民のつながり、すなわち緑的つながりはまず小学生の定番の遠足の場所としてだったが、一般の市民の往来ももちろん多い。市民はおろか、「苫小牧はとてもいいマチである」ことを紹介するような場合、たとえば個人的に大事な人を苫小牧に迎える場合、そして企業誘致などの際もまずここを案内することがある。感想はおおむね「工業都市の苫小牧にこんな素晴らしいところがあるとは!」。年間10万人などという声も聞いたが現在の正確な数字はどうだろうか。


 演習とはいかめしいが、seminar を直訳したもの。玄関の英文の表札は experimental
forest と書いてある。さて、演習林であるが、北大の前進・札幌農学校時代の明治37年に林学の研究とともに財産林の意味をもちながら開設されたものである。演習林そのものは27の国公立大学が全国に82カ所もっており総面積は14万ヘクタール、そのうち北大は7万ヘクタールでほぼ2分の1を占める。ここ苫小牧地方演習林は2715ヘクタールで、わたしが勤めていた苫東のかつての実緑地面積2800ヘクタールと偶然近似していた。
 
演習林の意味、調査研究の内容などについては、もとの林長・石城謙吉氏の「森はよみがえる」(講談社現代新書)にわかりやすく記述されているのでご覧いただきたい。実は上に記した歴史や面積は先生の著書から引用したものである。



■わたしの演習林の「春・賛歌」

 さて、このHPでは、人から見た緑の質、歩き勝手(あれっ、こんな言葉あるかな?)・使い勝手など感想をしたためるのが目的だから、画像で雰囲気を紹介して寸評に入ろう。その画像であるが、ここでは春先の葉のない時期のものを使用することにした。なぜなら、苫小牧の(いや、ここばかりではないかな?)雑木林は、落葉期こそもっとも快適だから。いやいや、これでは言葉が足りなさすぎるかな。新緑も紅葉も感動的だし、むんむんする夏も悪くないのだけど(なんか言い訳がましくておかしいけど)、やっぱり春早く、秋遅く、そして冬がオススメなのですよ。中でも、少ない雪が解けて、土の凍結が解けはじめ黄色い花のナニワズが咲き始めるころは、「春祭り」をしたいほどの待望の春のにおいをかぎ分けることができる。そのもっとも気持ちよいサインが、演習林などの雑木林からもっとも色濃く出ると言える。

■演習林は市民にとってナンデアルカ

現在の私の家(市内西部の豊川町)からは、距離で約8km、車でなら15分程度で着く。演習林の特徴をいくつか挙げてみると次のようなことになるだろうか。

1.公園的な南側入り口の広場からヒグマの住む北のエリアまで、自然度の濃淡がある
 だから、市民は場所を選ぶ。広場で子供とゆったり遊ぶときは入り口の池と川があるゾーンを、ちょっと鳥を見たり、アズキナなどの山菜を軽〜く取ったりするときは、芝と水辺の入り口部分及びその界隈。森林らしい探鳥とか、キノコ(ボリボリと称するナラタケ、ラクヨウと称するハナイグチなど)取りはもう少し奥に入った林道から、そして自分だけの秘密の場所でマイタケを取るとか、胆振・日高の玄人好みの山菜・スドキ(和名モミジガサ)とりなどはもっともっと奥へ。
 要するにマニアックになるほど奥をめざすという傾向があるのではないか。そこは、入り口及びその周辺と植生がそれほど大きく変わるとは思えないが、よりそれらしい奥山感があり、入る人が限られるため、キノコも含めた山菜とりの場合、より専一的に収穫を独占できる。そのかわり、ヒグマと遭遇する可能性は増す。
 苫小牧の人々はそこのところをよくわきまえて山、この演習林に入る(とわたしは思っている)。この感覚は、里山、奥山感覚の基本であり、里山の一歩手前に、マチの中の緑(たとえば札幌の植物園)を持ちたいところだけど、これは宿題としていずれじっくり記述するテーマにしておこう。
2.林業もやっている
 2700haの森林の中ではしっかり木材生産をしている。欧州の都市林と同じだ。その都市林的施業は8年ごと繰り返すことになっている。
3.支笏湖や千歳にぬける公道があり、色々な人が通過する
 西側を国道が、南を高速道路が走っているほか、真ん中を市道が縦貫しているので、基本的に自由に森林にアクセスできる。
4.開放されている
 山奥の森林は、とかく、ゴミ捨て場になりやすいが、ここは開放している。
5.研究をしている
 そして演習林たるゆえんであるところの研究、これはばっちりやられている。特に石城林長のころから格段に増えたのはその筋では大変有名だ。

■演習林を歩いてみる

2001年の3回目の緑探訪、5月5日 土曜日 07:00-9:00 をルポしてみよう。

今年わたしはアカショウビンをみたいと思った。道内でたいていの鳥は見てきたつもりだが、まだ見ていない鳥の筆頭オオモノがこれだ。今年はポロト湖か演習林でこのアカショウビンをみたいと思い描くようになっており、そのためか自然にポロト湖に足が向き、そして演習林と続いてきた。
 
ここ数年、子供達はこのような緑系から完全に離れてしまって、今は友達など人系のゴミのなかにどっぷり浸かってもまれているから、単身で出かけることが圧倒的に多い。時折、家内が一緒のこともあるけれど、家内も仕事の疲れを家でとる、なんてことを言うので、わたしは喜んで一人で雑木林にでかけ作業をするのだ。

 でまず、庁舎前の駐車場から歩く。山火事予防月間で入り口にボランティアの管理人が常駐しているので話を聞くと、4月29日に緑のトンネル、5月3日は勇振の取水口にヒクマ(親子3)が出没しているらしく、その旨の看板が出ている。庁舎脇のメイン通りをぬけて幌内川に出ると、川沿いの小道が自然だ。橋や飛び石も変化が多くて楽しい。

 葉のない林はとても明るい。足下の植生が枯れた状態で見通しもよい。折しも、5月は鳥たちのさえずりも多種でボリュームが高く、鳥達の頭数が圧倒的に多い。ニアミスを起こす。アカハラ、キジバト、オオアカゲラ、ニュウナイスズメ、ウグイス、カラス、アオジ、ヒヨドリ、マガン、センダイムシクイ、シジュウカラ、ゴジュウカラ。耳に聞こえる鳥と目視した鳥はざっとこんなところ。
 
ベンチはやはりビューポイントごとに置いてある。都市林の施説整備を明らかに目指しているという意図が見える。そして市民側はそれを楽しんでおり、心の往来がある。それがいわゆる、ふれあいというものだ。ドイツはヒュッセンの森林散策コース(療養などに利用)と比べると、演習林の方の自然度が高い分、アクセス性は低いかもしれない。簡易舗装などのルートがないからだが、その不在を差し引いても多様性と活力度は高い。鳥類、魚類、ほ乳類(シカ、クマ)の高密度の存在が、まさにサンクチュアリと言える。
 
苫小牧市民の水源でもある幌内川が演習林の中央を南下していることも付記する必要がある重要なファクターである。かつて鬱蒼とした樹林地の中を幌内川が流れていたが親しみやすい水辺にリフォームされた。明るい、みんなが憩える空間に変わったと言えよう。
 ヒグマの存在はしかし、開放された散策のひっかかりになることもある。そういうときはちまちまと入り口部分を歩けばいいのだが。このことはいずれ整理しよう。


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