手仕事の現地から

NO.17

2002/11/23〜2003/1/25


いよいよ、今年の冬の仕事を始める。
来年の3月までサラリーマンのにわか木こりが週末だけのちょいの間の作業で
1ヘクタールを終えられるかは、ちょっとみもので不安もよぎる。
突然の雪で難航もするのだ。しかし手応えとたのしみが同居する。
小屋の薪ストーブとつきあえることも胸をふくらませる。ああ…。



1月25日(土)晴れ 12:50                           とっても快調な作業だった。先週、懸かり木になっていたものを手始めに淡々と片づける ことができたのは、精神集中の賜物と言える。それでも「うけ」と反対側に木が倒れると いうハプニングがありひやっとしたが、混んだなかでもかなりすき間を狙って倒すことが できたので作業は進んだし、先週のようなストレスは吹っ飛んだ。気持ちのいいひととき だった。                                      実は、毎日こんな作業をして暮らしたい。いろいろな人の手入れを待っている林を訪れ 点々と作業をして回りたい。有償なら申し分ないが今のように手弁当でもいい。サラリー マン生活を卒業して、オニギリ2個とチェンソーをもって薪づくりをするのである。この スタイルに高い達成感が感じられるのだから、わたしの価値尺度はかなり世間からずれて きたようだ。                                    今朝、庭のイボタの垣根に混じっていたのを放置して伸びたハルニレ(4m)を伐る。 伐るよと暮れから心の中でメッセージを送っていたものである。愛着のでてきたハルニレ だったが、隣りにはびこり物置をいためて、そろそろ潮時だったのだ。太い幹は7年の年 輪があって、これは薪にするためにログの前に運んだ。枝の方はカラマツ林の間伐した枝 と一緒にするようにもっていった。木の命と再生を思って合掌。            1月18日(土)晴れ 13:10                           作業は不調だ〜。太めのカラマツも間伐始めたら、ますます倒れなくなってきた。混み合 った枝が、ドシーンと倒れるあの加速を邪魔する。だから立て続けに懸かり木になってし まう。数本まとめてこれが続くと、ちょっとストレスに感じ始めるのだが、今日はまさに これだった。危ない作業なので逡巡も多い。仕事はますますユックリになるわけだが、ま あ、いいかっ…。                                  ただ、これまでの作業で、あらあらの抜き切りに一応の目処が付き始めたので、仕事の 始めに、これからあらためて間伐する必要のある木に赤いテープをつけてみた。南東の端 にまだ手つかずのゾーンがあるので、あと100本以上、抜き切りして片づけることにな る。  仕事上の迷いもちょっと引きずっての作業となったため、ひとり慎重を期した。慣れて きているので、頭が別のことを考えるのだ。集中ができない。娘のセンター試験の日でも あり、林の真ん中で、いろいろなことを混ぜ合わせて拝む。大好きな神頼み…。日常を引 きずって林にやってきた格好だが、これも人生だな…。                1月12日(土)晴れ 外2度                           林道の雪は深く、かつ固くなったようだ。車体の低い乗用車でこの時期林道に入る人はお らず、ハンターたちはみんな4輪駆動だから、わたしの車は林道の入り口から腹をズズズ とすってしまう。こんなことばかりしているとマフラーがはずれたりするから要注意だ。 道ばたから始めた作業は、今、一番奥までたどり着いた。林道はこんな様子。  年明け最初の作業は、朝から実に手強いものだった。カラマツ林の中に入ってしまうと 間伐する木は倒れるときに混んだ隣の木の枝に引っかかって簡単に倒れない。倒したい方 向に「うけ」を作ってチェンソーを伐り進めながら途中からは惰性をつけるために左手に 体重をのせ押して倒しに入る。こうすると割合うまくいくのだが、今日は難航を重ねた。 頭上から枯れ枝がばらばら落ちてくる、ヘルメットが不可欠の世界である。       窓の下の薪にいつも木の粉がつく。手に取ってみると潜孔性の昆虫が 掘っているようだ。道理で新しい粉があるはず。キツツキはこれが目 当て?                              懸かり木になった木は、てこの原理で根本をずらしていくことになるが、半分は持ち  上げて動かす。腰に何10キロかの不可がかかる。それでも容易に倒れないので全体中を のせて左右に揺さぶる。その結果、ようやく木と木の間のすき間に、枯れ枝をふり落とし ながら倒れ込んでいく。たかがこんな作業だが、力が入るから倒し終えると息が切れてい る。                                       窓の下には、またウサギがよく来ている。間伐した林地も遊びまくっている。 というより、カラマツやイタヤの先端部分など、えさになる柔らかいものが増 えたのかも。                               奥の間伐境界がみえず、あとどのくらいかかるか判断しにくいから、赤いテープを張り 直した。ああ、大分ある!唖然! 昼前、入谷さんが助っ人に来てくれたので、倒し残し たところなど、ふたりで揺すって倒した。またまた、へとへとになって昼ご飯のオニギリ をほおばったのはほぼ1時だった。                         手伝いに来てくれたKAKUさん。次回あたり、マイチェンソーかも。 12月29日(日)晴れ                              間伐作業の仕事納め。こんな日はすこしのんびりするものだが、結局手をゆるめることな く、2時近くまで作業した。朝ご飯を抜いた、いわば断食のような作業だから体調にはと てもいい。今朝は自分で大きなオニギリをふたつ作り、羽毛の靴下にくるんできたところ、 遅い昼飯時には、海苔がちょうどいい塩梅になれて絶妙な味になっていた。もちろん、温 度も適温。うまかったあ、と思い出すほど。間伐は思いの外スムーズに進んだ。年明けに もう一度作業できれば、終了までの日数が読めるが、問題は材をどう片づけるか。ものす ごく重たい。新緑時にOBに声をかけるか。高齢化したOBの肉体がそれに耐えうるか? 12月28日(土)雪のち晴れ 外−6度、中−13度→+20度           今日から休みに入った。雪がやや増えて、林道から小屋までの数十mのアクセスがはまり そうで危ないので、とうとう入り口の駐車場脇に車をおいた。朝6時、家の戸外温度計は −13度cだった。本格的な冬になったのだ。雪は小屋に着いた頃からしんしんと降り始 め、これからのアプローチは毎回ためらいがつきまとうだろう。             カラマツは枝という枝にたっぷり雪を積もらせて、今日も、振動を与えるたびに大量の 雪がどっと落ちてきた。エリアの奥の方に着手したため、残り作業の輪郭が一段と見え始 めた。どうやら、面積では全体の3分の1ほどに手を入れた格好で、これからはカラマツ だけの間伐ですみそうなので、大分気が楽だ。20%の間伐なら、枯れたもの、よじれた ものを選ぶだけでそのくらいはいってしまうから。                   このところ、ログハウスに入っているとキツツキがよく突っつきに来る。ログがつつか れるのはいかがなものかと心配だが、今日は薪を突っついていたのでちょっと安心した。 12月21日(土)はれ 1時半  外0度                     ベランダに積もった雪。大したことはなさそうにみえるが…。 雪が少ない苫小牧ですら難儀するのだからここより北の札幌や 旭川などは大変だ。                    たっぷり雪が降った。林道は30cmあろうか。車体の低いわたしのタウンカーは、ほう ほうの体(てい)でログにたどり着いた。問題は帰りだ。               コンモリ積もった新雪と雑木林。けものの足跡も多い。  10時前から作業を始め、途中燃料を補給したりストーブに薪をくべるため小屋に戻っ たが、集中して作業をしていたせいで気づくともう1時近かった。雪の降った後の間伐は チェンソウの振動が樹木に伝わった途端、粉雪が舞ってくる。結構きれいなものだ。   あらためてカラマツの枝先をみていると、実にたくさんの鳥の巣がある。カケスとかヒヨ ドリとかだろうか。決して小さくない巣だ。カラ類よりふた回り大きい。         風景が変わっていく充実感はすごい。肉体の手応えもしっかりしている。つまり、過酷 な筋肉労働というわけだ。この充実に素直に感謝する。こうして作業を続けられるのは実 に幸運としか言いようがない。とても得難いエネルギーを心身の両方にもらっている。  おじさん、ひとり。首の手ぬぐいとヘルメットは必需品。ひげも剃らずに やってきて、ひたすら木こりになりきる。魂がよろこぶ。そのことに感謝 する。                                後片づけ方式は、やはりはかどる。後半の仕事は集中が切れるので、枝や丸太の運搬で 過ごすのは理に適っている。                            12月14日(土)曇りのち晴れ 6度c                      久々に気温がプラスになった。朝の小屋の気温はなんとマイナス10度だった。さすがに 低温の積算はログの小屋を冷やす。いや、ログのすき間を考えると温かいはずがない。暖 房の効率も極めて低い、これはちょっと残念。このログハウスの致命的欠陥である。    今日は作業方式を替えた。3月までできるのだろうかと不安になったからだ。これまで の3回は、林道の縁だったこともあって切った端から玉切り(丸太にすること)して枝も 片づける、いわば見た目をかなり気にした完成時イメージでやったもの。当然手間がかか る。遅々として進まない。そこで片づけを後でやる方式を採用。名付けて後片づけ方式。 これなら伐採が許可期間の3月に終わってからでも、ゆっくりやれる。あるいは少なくと も気分的には楽ができる。                             道ばたのカラマツを整理する助っ人・NUKEさん  という魂胆で、8時半からみっちり、しこしこ、丹念に慎重に切り進んだ。そこへNUKE さんが助っ人にやってきたので、チェンソーの練習がてら替わってもらい、玉切りと枝払 いをしてもらった。正直、仕事は、先が見える程度にはかどって、後片づけ方式の有効性 を証明。                                     12月11日(水)くもり                             恒例の山の神の参拝に、特別神事休暇をとって来訪。さきほど、つた森山林のやしろにお 参りした。お酒、こんぶ、スルメ、りんご、それに上げ潮、と供物は質素だが、心を込め てお参りした。                                  山の神が祀ってあるつた森山林のハルニレの広場。

 お参りのあと、誰も訪れる人のないだろうハルニレの広場から坂をのぼりハスカップ畑に
でる林道を歩いてみた。霜柱で路面は歩きにくいが、林の風情は相変わらず、苫小牧の里山
だ。蔦森さんという人が手がけた里山を苫東という民間会社が引き継いで里山を維持したの
だが、わたしはその管理の中心スタッフだった。坂の両側のサワシバを刈り込んでありすっ
かり明るくなった。                                

12月7日(土)くもりのち雪                          
外は零度で風あり。間伐の重労働にはちょうどいい気温だ。この1ヘクタールのカラマツ
林は3角形をしており最初南の方から手を着けたが、今日は、ログハウスのそば、つまり
北はずれに着手してみた。こうすると小屋の周りの里山と一体感がでてそれが拡大してい
く感じがわかるから。それと休みにログにすぐ戻れるから。ぬくい昼食のため、途中で薪
をくべることができたのも近間の作業のメリットだ。                

7,8本萌芽(奥)していたのを抜き切りしたらこんなに薪材がでた。 樹齢は20年ほど。                         カラマツが混んでいるのでしょっちゅう懸かり木が発生する。そのつど、てこをつかっ てようやく倒す。ああ、腰に悪いな、とわかりながら逆療法とわりきって体重をのせる。 あるいは傾いたままの幹にチェンソーをいれて途中から切断する。これは懸かり木が大き く落ちてくるので気をつけなくてはならない作業だ。昼過ぎ、この日一番太いカラマツを 手がけた。直径は40cmほど、年輪は40ほど。隣のカラマツに頭を押さえられ芯は止 まっているものの横枝を出していたものだ。驚くことに今年の成長がすごい。1cmもあ るように見える。あの葉の量でどうしてそんな成長が可能なのか。それともあの辺材部は 数年分の年輪だったのか。丸太がべらぼうに重たいので、運搬を考えて太いものは短くす ることにした。1mの長さにしても直径40cmなら70、80kg以上あるのではない か。トングで数本寄せ集めると腕がだるくなる。                   こんな風に空間を取り合っている。風が吹けば枝先はふれる。 先はほうき状になる。すき間に広葉樹が枝を伸ばす。     このくらいにしてあげたいというモデルを作ってみる。ひねた カラマツをあきらめ広葉樹に置き換えるのも方法のひとつ。   9時前から12時半までの手応えのある力仕事だった。仕上がりを林の横からみると、 ああ、スッキリしてきたと如実にわかる。が、林の中にはいって空を見上げて樹冠を観察 すると、なんてこった、枝のない空間はわずかでまだまだ混んでいる。これではすぐ樹冠 がとじてしまうが、間伐率20%ではほぼこの程度だ。仕方がない。           この時期、カラ類が雑木林の幹をさえずりながら飛び歩く。今日もベランダでみている と、シマエナガの群が来ていた。ムシを食べているのだろうが、無心な様がどこかかわい く楽しそうだ。                                  12月1日(日)快晴、無風                            子供らがやってくると、あたりはたちまち懐かしい里山になる。 9時からカラマツ間伐の2回目。風のない快適な風景、そこへ札幌から山崎さんら薪割り 部隊が来訪。ややして、手伝いのlangoさんも到着。薪割り、昼食準備、間伐、枝片づけ などの仕事を、てんでばらばらに。山崎さんの奥様がおいしいポトフなどいくつかの品々 を用意してくれたので1時頃、ごちそうになった。                   作業はくたくた。切り傷、あざ、目にゴミが入ったまま…など。とても人を誘えるよう な仕事ではない。                                 11月23日(土)晴れ 外0度、中−4度c                   
久々に過冷却を見た(左)。山小屋で静かに水を冷やすと、水が 液体のままマイナス数度になるのだ。横になっていたペットボト ルを、凍っていないのはおかしいな、と触ったら凍り始めた。  ビールもそうだ。注いだ途端に、シャーベットになる。    
今日から本格的な今シーズンの間伐を始めるので、9時、つた森山林にある「山の神」に 作業着手の挨拶と安全祈願をする。その行き来に、トドマツ、ヤチダモ、カラマツで樹林 気功をためす。わたしは直径60cmのカラマツがもっとも感じたと思う。トドマツでは 呼吸の都度、気が行ったり来たりする感覚がある。これらはいずれも直径50cm以上の 大木だった。                                    ブッシュカッターの修理費が11,〇〇〇円かかったが、調子はすごくよい。やり残し た小屋の周りのブッシュを刈る。先月から切った枝が次第に貯まってきたので、集めて燃 やす。ていねいに火の番をしつつブッシュカッターをあやつる器用な作業だ。しかし、我 ながら焼き残しがなく枝先まできれいに焼けた。うまい!と自らに拍手。        枝を焼く。林床はこれでスッキリする。小枝を焼き切るのは技術が いる。が、今日は満足いくできだった。メデタシ、メデタシ。    前段の作業が多すぎて、間伐は11時半過ぎに開始。今日は慣らし運転だから、南はず れを200uほど。ほどなく入谷さんが手伝いに来てくれる。ツルが3本にまたがりてこ ずったが、整頓までして1時。ストーブの前で昼食、2時半まで歓談。         林の中。ササとフッキソウだけのシンプルな植生。38年生。 20%間伐する。                      ここのところ、瀧澤先生が2週続けて患者さんと雑木林においでになり、時間を過ごさ れている様子。小屋の周りはだからますます里山に近づくのかも。          



home
雑木林だより16
雑木林だより18