生成りで語る

第10回

■テーマ   「モンスター少年と環境」      「ドイツのルーラルパス散策の報告」→田園と森は保養地 ■日時と場所   11月9日土曜日 pm2:00--- アイビー・プラザ@苫小牧 
●はじめに 今回のテーマは、持ち越しになっていたSさんの報告と、わたしが9月末から行っていた ドイツの散策路に関する報告のふたつ。ドイツの方は、別に報告を予定しているので、こ こでは掲載しないでおくことにした。                         で、表題のモンスター少年とは「男の更年期」(Jed Diamond著:新潮社)に出てくる 一項で「地球」「母」「未成熟な男性」などの関連にしぼってSさんが用意した資料の中 心的な部分である。記述はなかなか刺激的で示唆に富み、思い当たるフシが随所に出てく る。更年期とどこでどう関係するのか、与えられたページだけではなかなか結びつけるの が難しいけれども、地球環境への甘えと女性のジェンダーをくっつけて見る視点には考え させられる。以下、引用しながらコメントを加えて最後に、全体を通して俯瞰することに しよう。 ●モンスター少年と環境(85p〜) ――弱い男性や女性に対してふるわれる暴力は地球に対してふるわれる暴力とかかわりが ある、とフェミニズム学者たちは長い間、指摘してきた。「男性が女性をレイプする行為 は、地球をほしいままに略奪する態度と同じである」と『世界を紡ぎなおす』の著者アリ シカ・ラザックは言う。「地球も女性である。結果を考慮せず調和もわからず、我々は乏 しい地球の資源を貪欲に消費している」。  物を消費しすぎたり、車や飛行機の旅行で化石燃料の使用を増やしたり、人口爆発のた めに動植物の棲息地を侵略したりして地球を破壊しているのは、女性も同様である。しか し、男性は女性より生命の自然なリズムと関わりが薄いので、女性以上に自然をコントロ ールしようとしがちである。  男女の価値観のちがいについて、サム・キーンは次のように述べている。「女性も消費 社会に組み入れられているが、心の底には生物としての秩序を大切にするという基本姿勢 をもっている。女性にとって肝心なのは損得ではなく、出産と子育てである。それに対し て産業革命以来、男性は自然資源の利用とあまりに深くかかわってきたので、地球環境保 護の考えを受け入れるには根本的な自己変革が必要となる。行為だけでなく、哲学そのも のが変わらなければならない」――  大変なことになってきた。地球と女性。つい甘えてしまう男や子供の振る舞いの相手と しての女性と同じように我々は地球に甘えている…。具体的にいえばどんな無鉄砲な改変 行為をしても、地球が持つ恒常性ホメオスタシスに守られ、地球は何事もなかったかのよ うに並行を保ち、顔色ひとつかえないできたことを指すのだろう。結果を考慮せず、調和 もわからず…、というのは過去も今もさほど変わりはないが、昨今は影響についてうすう す気づいている、あるいは部分的にわかってきたが経済のためほおかむりを決め込んでい る、というところだろうか。    ガイア理論を公表したジェームズ・ラブロック博士が発明したある装置(名前は忘れて しまった)によって、地球上のあらゆるところの微量の農薬が検知されるようになり、こ の装置を元にレイチェル・カーソンは環境汚染の警鐘を鳴らすことができた。そしてその 警鐘が功を奏して、一見、それらは乗り越えられたかに見えた。絶滅しかかっていた野生 生物の保護が進んだり汚染物質の数値規制がとられるようになって、ある程度改善が見ら れるようになったからである。 ●母への甘え しかし、甘えはエンドレスだ、と著者は言うのである。実際、一段落したというのも汚染 が巧妙になっただけだ、という現実は日々のニュースで明らかだし、食料基地と呼ばれる 北海道の農地のほとんどにミミズなど棲んでいないらしい。つまり化学肥料、殺虫剤で土 はとっくに死んでおり、化学製品の投与で農業は成り立っているということである。一方 地下水の汚染は進んで、地下水を飲用にすることが難しくなってきている。人口の爆発的 増加はすでに頭打ちになっているという声が聞こえ始めたが、その原因は「水」である。 バングラデシュやインド、カスピ海周辺などで地下水の重金属汚染と砒素含有が進んで水 に制約を受け始めたらしいのだ。  また、西ナイル熱の流行によって米国では薬剤散布が行われていたが、あれは「沈黙の 春」の描いた風景と同じであった。西ナイル熱はなぜ発生するか。地域の平均気温が上 昇して本来熱帯に生存する蚊が北上してすむことが可能になったからである。土にミミズ はなぜ棲まなくなったのか。農産物の収穫を拡大するために化学肥料を与え、病害虫を押 さえるために殺虫剤を散布するからである。  「人の命と、人の生命を維持するための食料の確保」。これは人類の大命題で一見,無 理のない対策ではないかと思わせる。しかし、そこのところは、大きな甘えに傾いている という指摘だ。そうかもしれない、というようなまだ仮説状態であることをたてにして、 温暖化を押さえる努力はまだ一握りといえるうえ、食料をとりすぎる飽食と対極の飢餓は 相変わらず併存している。明らかな証明がなされるまで、環境をむさぼってしのごう。そ のうちなんとかなるだろう。これは体制としては西側先進国の現状維持の有力な陣営がも っている方針である。 ●命のリズム ここのところの感性が、生命の自然のリズムに深くかかわる女性が鋭いという指摘は、と ても興味深い。男には月のものはなく、体に感じるリズムは確かにない。これは宇宙的自 然につながるパイプを持たないことを意味するのだろうか。だから、気功や呼吸やヨガや 瞑想を通じて、地球と交信することを願うようになるとこの失われていた交信のパイプ、 自然のリズムを感じ取る感性を手に入れることになり、結果的には地球への甘えにストイ ックになりギアチェンジして減速生活に入る準備が整うのだと思われる。男たちの自己変 革がない限り、地球へのいたわりは生まれないであろうというサム・キーンの予言に似た 言葉に対して、瞑想や呼吸などの東洋の思想は重要なきっかけになる哲学になる。 ――スリランカの作家で心理療法か野アヌラダ・ヴィタッチは「人間がようやく悟り始め たことは、われわれは駄々っ子では行けないということである。母なる地球を所有したり 当然の権利として限りなく食物をなき求めることなどできない」。という。しかし少年た ちは「男」になるための指導を受けられないと、子供っぽい要求をし続けることになる。 女性は自分たちに奉仕すべきと考え、女性にも彼女自身の欲求があると知るや、腹を立て る。また地球環境にも同様に要求し、世界はあめ玉だと思っている。―― 実はこの本のタイトル「男の更年期」はこの辺で引っかかってくる。つまり、男にも更年 期があり、これを上手に過ぎないと本当の大人の男になれない、泣き求め暴れる子供のま まだ、とまあ、タイトルとはこういうつながり方をするのである。極論すれば、更年期を 経験して大人になった男性が子供に真の大人として振る舞いを見せると子供たちはモンス ターにならないですむ、したがって大人の落ち着いた社会になり、地球への甘えと自然を コントロールしようと言う横暴は納まっていく、というシナリオが描ける。 ――環境問題が危機的状況にある最大の原因は、多くの男性が未だに成長していないとい うことである。もし男性が更年期をうまく通過しなかったら、腹をすかして貪欲に要求し 続ける駄々っ子のように振る舞い続けるだろう。強くて面倒見のよい「父親」とふれあわ なければ、若い男性は信頼に足る大人に成長できないのである。―― ――男性は女性のように老年期にはいる生物学的な合図がないので、男性には特殊な教育 が必要である。―― 西アフリカ・ダガラ族の医者で占い師として生まれたマリドマ・ソメは言う。「記憶にあ るわたしの祖父は、心から話し合える友達でした。祖父と孫たちは非常に親密な関係でし た。少年たちは最初の数年間を父親とではなく、祖父と過ごすのが普通です。祖父と孫が 分かち合うものは(父親とは無理)宇宙に対する親近感です」。  ううむ、意味深だ。また、すべての社会悪の根元のひとつに都市化と核家族化が横たわ っていると考えてきたわたしにはピンとくるうれしいメッセージである。つい先日も田渕 幸親氏の次のような言葉に出会った。グリーンツーリズムの観点で農村、都市を語ったく だりである。「都市という狂気にさらされた未熟なままの両親が子育てするよりは、農作 業に取り組むことによって人間として成長し成熟していった祖父母に育てられた方が、子 供にとってはより幸福であろう」…。わたしができずに悔やんできたことをズバリとあて られたのである。社会のいろいろな問題の出口のひとつに、農業をどのような位置におく のか、その舵取りがとても重要なカギになると思うのだが農的なくらし、農的な親と子、 祖父と子の関係は、人間の全的な成長にとって欠かせないものを含んでいる。ホリスティ ックなライフスタイルと言えばいいのだろうか、結構昔からある原初的な部分でわたした ちの病やストレスは癒され魂が喜ぶのは事実だ。そのことが次第にわかってきた。都市の 中に農的な空間を、核家族の中に本当の大人の知恵を、こんなスローガンが生まれる。 ●10回目を終えて Sさんが用意してくれたペーパーは、実は6,7枚あり、モンスター少年がどうして生ま れるかについてもっと詳しい文明論的社会学風タッチの記述があった。しかしここでは、 地球と男たちの甘えだけにしぼって記述した。結果的に85pしか関われなかったのだが 参加者同士の話のやりとりはもっと前後左右に乱れ飛んで、面白いものだった。再現でき ないのがちょっと残念である。わたしはこのあと、この本を買って読んでみた。内容はほ とんど男の更年期の話で、モンスター少年は全体から見るとまったくささやかなエピソー ドでしかない。だから、本のタイトルと勉強会のテーマの間柄が読みにくいのである。   後半はドイツのスライドを見て10回目を終了。「林」および「こころ」を真ん中にお いてテーマはあちこちに飛んだが、道半ばどころかこれからといった感じである。以後、 HPにアップするかどうかは未定ながら、回だけは重ねて見るつもりである。     

home