■海にすむイワナ
2002/mar


渚には落ち葉が筋になっている。拾うとその多くはブナの葉。さすが道南。
 2002年のFFの幕開けは、海のアメマス。森とどう関係するか、と言われそうだが、そう、川から海に下った北海道のイワナがこのアメマスで、森の中の清流で生まれたこれらが降海して沿岸を回遊するのである。森が生まれ故郷、って訳。だからということではないけど、秋の終わりから冬にかけて、海岸にはおびただしい落ち葉がたどり着く。それが春までに少しずつ分解されていく。増毛漁協のSさんに聞くところでは、落ち葉のバクテリアは磯焼けにとても効くのだという。留萌における水産加工の残りと落ち葉の菌を混ぜて渚に埋める実験も行われている。そして、3月の末、海岸にはまだ落ち葉がたくさん残っていた。海と森はここにもしっかりしたつながりがある。森は海を育てるのである。 さて、陸封されたりして降海しないアメマスはエゾイワナと呼ぶ。そして一方川を下ったアメマスは海で暮らす3年だったか4年だったかの間に大きなものでは80cmにもなって、また、川にのぼって産卵するのである。ちなみに北海道には、アメマスのほかにもう一つのイワナ「オショロコマ」がいるがここではふれないでおこう。         
雲石峠をこえて、見市川と山並み
 ところで、川でも30cmほどのアメマスをみかけることはあるが、7,80cmに育てることができるのは、やはり、海である。11月ころから釣れ始める海のアメマスは、時に、口いっぱいにオオナゴやコナゴをくわえたまま、さらにルアーやフライに食らいつくほどどん欲に食べまくる。川で水生昆虫や羽虫を食べている生活に比べ、海がいかに豊かということを示すのだろう。いってみれば、毎日が大宴会みたいなものか。      餌になっているのは、おそらく晩秋から冬にかけて、オオナゴ、コナゴ、サヨリなどのベイトフィッシュ、そして1,2月の終わり頃からヨコエビ(スカッドと呼んでいる)、そして3,4月は、川から下ってきたアキアジの稚魚をねらう。だから、この時期、アメマスを海でねらうときには、従って、稚魚の形をしたフライと小さなエビに似せたフライをたくさんもっていく。凪いだある日、稚魚をねらうアメマスと逃げる稚魚の群が、あたかも海を沸き立たせたような様相をつくる。それをボイルと呼んでいる。かつて、ものすごいボイルに巡り会った夕方、暗くなるまで岸を移動しながら追いかけようやく釣り上げた1匹のアメマスの胃袋を開いてみて驚いた。小魚は一匹も入っていなかった。狩りは時にとてつもなく効率が悪い。                            というわけで、3月の末、わたしは苫小牧から静狩峠を通って長万部・八雲を経由して熊石をめざした。ここまで、約200km、そして、瀬棚をへて島牧により、真狩・支笏湖を通って時計回りに戻るのである。大体600kmの行程だ。1泊か、2泊する。   熊石の鮎川海岸は、こじんまりしているが砂浜で魚が濃い。かつて、とてもいい思いをした思い出のポイントであり、何より人も魚もすれてないので、ほっとするのだ。最近はサクラマスも混じって釣れる。だが、あいにく、風が強くて、#10のダブルハンドのロッドでも、フライではちょっときつかった。30分ほどロッドを振ってやめた。こういうときは作戦変更するに限る。平田内川のぞばか関内の方へ移ることにした。       ちょうど平田内川の右岸の方の岩場で車を止めてみていると、おじいさんふたりがなにやらせっせと釣り上げている。ホッケである。ホッケもルアーやフライに良くくるので、ここで遊ぶことにした。おじいさんらは、もうクーラーいっぱいホッケを釣っており、なかにボラが一匹混じっていた。ホッケの型は30cm程度。アメマスは釣れていない、という。                                      「天然のサケ稚魚はもう川から海に降りたよ」  さっそく、アメマス&ホッケねらいで、岩場からキャスティングして、小一時間、4回のあたりがあり、2回バラして1本を釣り上げ写真を撮ってリリース。どうも食いつきが浅い。だからバレルのだ。ヒットしたフライは稚魚パターンで、おじさんたちはオキアミの餌釣りである。シーズン最初の対象魚はホッケとあいなったが、なんであれ、生き物との知恵比べはわくわくするもの。天然のサケの稚魚はもう海に降りて、養殖物はこれからだと言っていた。雨が降ってきたので、平田内荘で風呂に入り、車の中で眠る。夜のラジオはハングルとロシア語ばかりだ。                        
元気のいいホッケ。ダブルハンドロッドでもまあ楽しめる  なぜ、日本海のこのあたりでアメマスのスポーツフィッシングが盛んになったのか。この釣りの草分けとも言える知人のYさんによると、まず、禁漁河川の存在だ。積丹川、余別川、古宇川はじめ、南に下って千走川、大平川、泊川、須築(すっき)川など、北海道の日本海側、後志から檜山にかけて、著名な禁漁河川が続き、アメマスはそこで保全される。しかし、アメマスはサケマス増殖に関係する人たちから見ると、サケの稚魚を食べる害魚とされ、島牧村のアメマスダービーのそもそもの始まりはこの害魚駆除だった。固有種を何と失礼な扱いをするのだ、という市民らからの指弾により害魚駆除のタイトルは消えたが、位置づけがどうなったかはよくわからない。                 翌朝の熊石は鮎川海岸。少し向かい風であるが、波の切れ間で6時からロッドを降り始めた。波が1,2枚ある程度だが、しんどい。しかし、我慢の甲斐があった。7時半ころ重たい抵抗を感じたかと思うとグイグイと揺れだし、ラインをはるとアメマスの引きが感じられた。頭をふりふり抵抗するアメマスをランディングして写真を撮る。38cm。リリースするとき、魚体は力強い筋肉の躍動が感じられる。やはり、黒い稚魚パターンだった。                                      
今シーズン初めてのアメマス。引きはいい。川のものよりははるかにブリブリしている

こんなフライで釣った。下のふたつは熊石の人にかつて聞いてつくったフライ。ポーラーベアを使ったシンプルなものだが、よく来る
 このあと、浜を独占したもうひとりの地元の青年アングラーと歓談した。いつの間にか、一時間ほど立ち話をしたようだ。おもしろかった。かれは左のワンド(小さな湾状の海)でコナゴのようなミノー(ルアーの一種)で6本のアメマスをヒットしたという。しかし小さいようだ。                                 
地元のアングラーAさんと。地元人と語るのはたのしい。情報が生きている。そこを馬場競馬のそりが通っていった

島牧・江ノ島海岸で。向こうは狩場山
 FFは朝の2時間でやめた。風も強くなってきたのでそのまま瀬棚経由で島牧に向かった。夕方、島牧の江ノ島海岸は風が強く温泉に入って本を読んで寝た。翌朝は出し風で 凪いでいたが、魚の気配がなかった。海岸の落ち葉はブナが多いのも、ブナの里ならではだ。                                      
黙々とキャスト、そして海と林を考える