釣り人は、より満足度の高い釣果を求めて遠征を夢見る。そこにはきっと、ここにはない、 ビッグなチャンスが手つかずで待っているはずだ。加えてそこはわたしだけを待っている‥。 まあしかし、非日常的な遠征は、興奮であり交感神経を刺激して挑戦感覚と興奮を呼び起こす が、あちこちを歩き少し落着いてくる初老の年齢に達すると、いろいろな理由から日常的なフ ィールドを求めるようになるのではないか。雑事にかまけ、遠出ができない状況が増えてくる のだ。あきらめている間に、いつのまにか妥協ということも忘れそれがパラダイスだ、理想的 なフィッシングスタイルだと正当化し言い聞かせるようにもなる。ある種のごまかし、自己刷 り込み。深層心理として遠征と日常は戦いと妥協、納得と訓化が渦巻く葛藤の様相を帯びる。 どちらも理想ではある、というのが大人のフライマンの本音ではないか、とこれまた無難に まとめて、時折、「ちょっと遠征」をしてみたい。
黒松内は日本におけるブナ自生の北限である。自然の家など、エコツーリズムの拠点とな る施設や団体がいる。黒松内は島牧の海のアメマス釣りの折によく通過したが、機会があ れば街中を流れる朱太川を釣ってみたいと思っていたので、二日酔いの朝、ストレッチの 勤めを終えたやや朦朧とした状態で行って見た。 この道からいつかここで釣りたいと願っていた。川のほとりは芝が刈られていて 快適この上ない。 無尽蔵という感じの懐を感じる朱太川。おじさんのびくを見るのを忘れた。 水量のある川に下りて餌釣りのおじさんが一人。そばで拝見すると70歳代中ごろ。 「毎日、来られるんですか?」 「いやあ、週に1回ぐらいかな」 「餌は?」 「イタドリ虫」 「なるほど」 おじさんは瀬でこのイタドリ虫を引っ張るようにしてヤマメを誘い出していた。 わたしはここではじめてのキャストをしてみる。と、ファーストキャストにトライしてき た。フックオンはしなかったが、何投目かに12cmほどのヤマメがヒットした。フット パスに出かける前の30分ほどをここで遊び帰るとき、フライをしている中学生に話しかけ る。すると少年は、 「今そこでね、20cmがあがった」 「おお、それはすごい」 わたしは心から絶賛する。町の真ん中、餌釣りも多い中で20cmのヤマメはすごい。川 べりもなんか、英国風。
音更川&戸蔦別川 2005年7月22,23日 遠征は楽しい。実際、この年になって3百kmも車に乗っているのは疲れるし日常を壊す のがもどかしい。しかし、旅や遠征はテンションが上がる。今回の目標は、@帯広の森 のフットパスを歩くこと、A千年の森に行くこと、B北海道ホテルから朝の散歩に緑ヶ 丘公園に行くこと、中札内や八千代などの田園風景を堪能すること、などを念頭に、わ たしと家内、お互いの友人とそれぞれ会うことにした。それとフライフィッシング。こ れは家内が買い物する日と友人と会う日、二つのまとまった時間を充てることにした。 2日目、帯広の森のフットパスを順調に歩いてから、午後、音更川に向かった。中士幌 を過ぎた頃に広い堤防の頂上の道路にあがって、ポイントを物色した。なかなか、川に 近いポイントが見つからず、藪をこいでようやく水辺に着いた。川べりに着くまで細い 水路を2本漕いだのだが、そこは花の咲いたクレソンの群落で、もうひとつではバイカ モの白い花が咲いていた。 初めて川べりにたった音更川は、白濁し、透明度は高くない。若干、合成洗剤のにおい もある。ウェットフライを使うようにして小一時間、グイとヒットして30cmのニジマス が暴れた。魚体に触らずフックをはずした。正味1時間半でホテルに戻った。夜、30 年来の友人夫妻と会食する。 3日目の土曜日、家内は友人と待ち合わせなので、わたしは帯広の南南西にあたる八千 代の戸蔦別川に向った。日高山脈の沢登りの時だったかに、この八千代にきたがこんな に美しい田園景観とは思わなかった。この川で釣をするのは初めてである。川西のダム の下に入ってみた。水はきれいで水量も多い。ポイントも多い。 身支度を終えて床固め工を降りるとき、グニョッとした物をみた。アオダイショーだっ た。あったまったコンクリートの上に頭をもたげている。ドライを#4ロッドに、#6 はウェットを結んで交互に振ってみたが、ドライもウェットも全く反応がない。と、瀬 から落ち口にかけての部分で、パートッリッジ・アンド・オレンジに40cm程度の魚がく ねるように追いかけてきた。グスンというにぶいアタリもあるが針がかりしない。ドラ イにも追ってくる気配だがフックオンしない。30分ほど粘ったがだめだった。1時間 半ほど、やや興奮した時間をすごす。熊の心配を多少しつつ。 わたしはもう日常的な釣か、今回のような「ついでのフライフィッシャー」になるだろ う。日常的な週末を大事に使いたいから。当分は白老でいいな。