木こりは今日も釣る。日常的に釣りをしたい願望を、週末だけこの地で満たす

■日常的に釣りをすること

〜樽前山の麓の川で〜
2002/June〜


身近なフィールドについて 〜イントロ〜            フライフィッシャーに、遠くへ遠征して釣りをするタイプと、近間のポイントを探して 日常的に釣りをするタイプとがあるとすれば、わたしは明らかに後者である。大物に固執 しないし、同じ川でも日々表情が違う、そんなディテールで十分楽しく思える。そのかわ り、時間があれば毎日出かけたい。1時間でも2時間でも…。帰って庭仕事、ビール、あ るいはたまに書き物、などなど小刻みに時間を使う中のヒトコマとして日常的なフライが ある。                                       そういう釣り方をここ、苫小牧はできる。30分圏内で、支笏湖以外でも森から流れる 清流、雨が降っても濁らないいわゆる渓流に行き着く。錦多布(にしたっぷ)川、覚生( ぼっぷ)川、社台川、白老川、敷生(しきふ)川、飛生(とびう)川などから登別の幌別 川。さすがに登別は30分ではいけないが、樽前山の麓の、苫小牧西部から西にかけて、 そこは森林の中から流れ出る美しい川ばかりだ。                    もちろんほとんどは鮭が遡上する。おそらく、サクラマスものぼる。10月の終わり頃 はシシャモが遡上し、6月、海からアカハラと称するウグイが産卵に川へ来る。川へ来る といえば海のものとばかり思っていたチカ、これも安平川をのぼって遠浅沼(今はない) で内水面漁業の対象魚だった。もっとも、遠浅沼ではウグイをとって干して、炭坑に出荷 していたという。いつ事故で死ぬか解らない炭坑夫たちは、安いウグイの干物のお頭付き を毎朝食したのだ、と遠浅沼で生計を立てていた方に聞いた。              要するに海と川は魚たちが絶えず行き来し、一体どちらが出身の魚族なのかが解らなく なる。ムズカシイことは別にして、通常は、鮭だけでなく多くの種類の魚たちがしょっぱ い海と淡水の川を往来する、ということだけはここ苫小牧にきてしっかり解った。これは 夏に川の水がなくなるという、水田のための取水や飲用水のために、夏、川の水がなくな る本州の河川に比べると天国である。広大な森林、あるいは湿原に蓄えられた水が無色透 明(湿原はちょっと濁る)なまま、わずかな集落を過ぎて海に降りる。          どれほどのミネラルが海に供給されるのか、それは良く知らない。ただ、工業都市とさ れてきた苫小牧が、沖合がとてもいい漁場であり、昔々1700年代あたりから海岸に鰯 を採る集落みたいなものが形成され、冥加金をとる江戸幕府の出先事務所みたいのが勇払 (ゆうふつ)にあったと聞いた。弁天沼には当時から弁財天の社があったとされる。魚と の縁は、苫小牧はとっても深〜いのである。                      鰯どころか、苫小牧のトキシラズが一番、と「おいしんぼ」の作者が世界のサーモンで 一番美味しいもの、ときかれて答えていた。この沖でサクラマスを釣っている人の話では サクラマス100本に1本の割でマスノスケ、つまりキングサーモンが混じるという。   というわけで、魚類の話をし始めると話はどんどん弾むが、このページでは日常的なフ ライの世界をライフスタイルとして、というか、身近な自然のプロフィールをみてもらう ことにしたい。だから、ここでも釣果は問わず。河川名は明確にしないで書き進もうと思 う。                                      
アカハラの遡上に出会う 2002/06/08 曇り時々雨 14:00-15:30 前日からの庭仕事にくたくたになっていたのを家内に見破られ、「釣りはやめたら?」と ジャブをもらう。こういうとき、わたしは原則的に妥協したことがない。雨が降ってちょ っと先が危ぶまれるような時でも、先ず出かけてみる。目的地で、本を読んで一眠りして かえってくることなどもあった。しかし、圧倒的に行って正解ということが多い。     雨はどしゃ降り以外はしのげるし、降ったりやんだりの繰り返しが多いのである。屋内 で雨足を聞くとそれなりの降りでもいったん戸外で動き始めると、しのつく雨はむしろ快 適。                                        だから、いつものように好きなフィールドへ20kmあまりドライブした。川が見える ところにつくと、川で何かがたくさんはねている。そしておじさんがひとり、立ってみて いる。何だろう、春のサケということはないし…。車をおりて石づたいにそばへ寄ると、 赤みの多い魚体が瀬頭で絡むようにしてせびれと尾びれを見せている。アカハラである。 水しぶきをあげているのが遡上アカハラの群。一体、何のために?ちょっと不思議 な風景である。                                「採ろうとおもって手網を群れに投げたけど入らない」と先のおじさん。        「釣ろうと思っても釣れないんですよね。あれはそもそも何をやってるんですか?」と わたし。                                   「産卵でないのかい?」                              「それにしては流れのある瀬でなくてもいいのにね」とわたし。           そんなことをいいながら、その絡むようなアカハラの群れに目は釘付けになる。オレン ジ色の婚姻色で、やや深みでは何本かが黒い背中を見せている。毎年、ものすごい数の アカハラが上ってくるのだ。ここのサイズは25cmほどだが、新冠川や鵡川の河口で は、40cm以上の重たいアカハラであり、釣り人はおもりを多くして底で釣る。    1.5kmほど上流のポイントに入って、#2のロッドを用意し7Xの細いティペット を結んだ。水温15度。本流ににゆっくりフライを流すこと、2,3回。シャープなライ ズがあった。シンコかなと思っていると、おおっと15cmほどのヤマメが混じる。しか し、このサイズは一度しくじるともうでない。結局、10数センチの若いヤマメを数本ヒ ットさせリリースした。えさ釣りの人が解禁の6月1日に、きっと多くを釣り上げただろ うに魚影は濃い。しかし、食いは浅い。                        数10m釣り下ると、川が平場になって小さな瀬に分かれるところがあった。おお、こ こもアカハラだ。数10匹が固まりで体をくねらせている。深みにも黒い魚影が見える。 そばで見るとこんな感じ。偏向レンズでないと、なかなか、魚の実態が見えない。 残念。不思議感覚が伝わらない。                       浅瀬で体をこすり合っているのは出産前の興奮を作っているのか。試しにそばへ行くとす べてが散るのだ。それは知っていたので、今回は2,3mまで近づいてデジカメのシャッ ターを押すだけにした。                               しかし、ヤマメを餌で釣る人達はウグイを目の敵にする。大事なイクラの餌をとるから だ。釣ったウグイを河原や藪に捨てる人もいる。外道扱いされるのである。しかし、この 澄んだ川で見るアカハラの群れは何か小さな感動を引き起こす。そう、毎年繰り返す生き 物の儀式。                                    私のフィールドの渓相。これが樽前山の方につながる。 川が壁にぶつかる。こんな大場所がいくつか出てくる。  わたしは、今年もしっかりとヤマメが残っていることを知ったので、夏までどんどん大 きくなってくれと祈るだけ。大きくなった頃また来よう。それまであちこちのフィールド を回ってみよう。1時間ほどロッドを振って戻ると橋の上から大ぶりのアオサギが数羽、 川に立ち込んでいるのが見えた。そうだ。アオサギにとっても無防備なアカハラは格好の 獲物である。水辺に立ち込んでじっと動かない。そしてときおりあの曲げた首を素早く伸 ばして餌を攻めるのである。どうしてアカハラが今来ていることがわかるのだろうか。飛 びながら、水面の変化をよく観察しているのに違いない。  水辺の両脇にアオサギが陣取る。結構、ぼろい商売に見えるが、収穫率は 高くなさそう。                            さらに200m下ると行きがけにおじさんとアカハラ見物をした場所だったが、ここに はキタキツネが陣取っていた。車を止めたわたしに気づいたキツネは、狩りのじゃまをさ れてしまったのをブツブツいいながら(まさにそんな格好で後ろをたびたび振り返り)対 岸の藪に姿だけ隠した。顔はヨモギの陰に黄色く見えている。頭上をしつこくトビが小さ く旋回している。おそらくトビもできればアカハラをしとめようとしているのか。あるい はキツネが食べ残した河原のアカハラをねらっているのか。               ともかく、こういう食べ物をめぐるつながりがフィールドではよく出くわす。ここは1 0月下旬あたりは産卵後に死んだサケの腐臭が立ちこめる。河原はサケの死体を踏まない ように砂と石を選んで歩かねばならない。これも壮絶な風景である。この風景の周囲と上 流一帯は、深い森である。                             釣り人の変遷    〜クマの恐怖と悦楽の狭間で〜 2002/06/16 くもり 14:30-16:00  日常的に釣りはしたい、と威張ってみても、そこはそこ、そんなに自由に出かけられる ものでもない。家人の用事のおともとか、家事分担、地域の所用など、様々な用事で休日 は多忙となる。これはサラリーマンの常であり、黙して流れの中にのる、というのが幸せ のための要諦である、というところにたどり着いている。                さて、今日もその要諦の最中の出発となった。朝から、庭の片づけとハンギングバスケ ットの最後のヤツを片づけ草取りをしていたら、もう昼過ぎだった。腰も痛い。さあ、午 後はどこかへ…。これがやや遅れての出発となった。しかし、そこは慣れたもので淡々と 場の流れにあわせて、焦らずいらつかず。                      新しい看板、ドキッ  今日は王子製紙が上水を採っている白老の川へ。家から17km程度だから近いといえ るが、そこはクマ出没の看板が光る別天地?である。やはり樽前山の麓でありきれいな水 がふんだんに湧く川。地域では有名な川だからもちろん釣り人も多い。夏頃、取水工のず っと下のちゃら瀬で、大きくなったパーム(てのひら)サイズのヤマメを釣るのはのどか で楽しいし、ここまで残っていたというのもうれしいもの。              イザ、釣り上がろう、ブルル  今回は取水工をこえ林道の終点に車をおいて上流に向かうことにした。すでに先客がふ たり。川幅は10〜20m、ヒラ場になって上流に白瀬が見える。#2にカディスを結ぶ と速い流れの瀬でシンコがヒットする。ポイントごとにひとつかふたつ、ヤマメが居着い ているが、手のひら以上のものはいなかった。                     300mほど先にさかのぼった屈曲部で、餌釣りの人にあった。ちょうど、魚をさばい ているところだった。20cm近いヤマメが4,5匹。おおこんなに大きなものもいるん だあ!そこですかさず、                              「いい体高してますねえ。写真撮らせて下さい」とわたし。               「ひとの収穫撮ってどうすんのさ?」(変わってんね、あんた、という風に苦笑いしてる) 「こんなサイズのヤマメがいるって記念です」                     20cmちかい幅広ヤマメ。いると思えば元気もでる  これだけたくさんの人が来て、このサイズがまだいるというのは驚きだ。それでも、朝、 釣り上がるときはまったくあたりはなかったそうで、気温の上がった帰りの下りで岩陰な どでぽつぽつと出始めたらしい。水温を測ると13度である。この温度では浮かして釣る ドライフライにはあんまり出がよくないと思う。深みのいいポイントで、ヤマメは出るに は出るがものすごくシビアで、ほとんど針がかりしなかった。フックオンの確率は2割 程度。                                       この方と立ち話をしながら状況を聞いた。フライと餌の違いはあるけど、支笏湖や白老 川など、フィールドがそっくりだった。そして面白い棒を見せてくれた。15cm以下の ヤマメをリリースするため、この棒をあてるのだそうだ。それで、さっきのヤマメは15 cmという自ら課したレギュレーションを合格したものだったわけである。だから、いつ も収穫はせいぜい5,6匹なのだそうだ。                      これがうわさのリリース用スケール。間伐の時つかうのは「バカ棒」という  この話は興味深い。年間1000匹とか2000匹などと自慢し、シンコも釣る人がい る中でこんな餌釣りさんもいるんだあ。全部リリースしてくれれば、わたしなどももっと 楽しめるのだけどそれは言えなかった。聞けば小型をリリースする人は結構いるらしい。 これは朗報である。すこし胸が暖まる思いをしながら1時間ほどで川を後にした。森が深 いのでどこか恐くゆっくりできないところがある。林道でタヌキがひかれ死んでいた。  源流部にて 五感をフルに働かせる上流  7/25 & 28                       7月25日(木)くもり 代休&夏休み  水温14度 とある源流にて          最初に来たヤマメ?いや背中の点々をみればやはりニジかも。  雨が続き、ポイントの入れ替えがあるはずと参入してみる。6月1日にヤマメが解禁に なってから、まず下流をせめてやがて雨ばっかり降っていたから来そびれて今期初。いつ もの川の源流だが、山は深い。水気をふんだんに吸って山の気は湯気が立つように呼吸し ている。川はまったく濁っていない。国有林では山の手入れをしているので、この林道は 土砂くずれが起きても復旧が早い。川仙人さんらに教えてもらった「憩いの広場」から入 林の中の透明な渓流。緑は深い。緩い流れもあるが、ポイントが連続する。 ると、ポイントごとにきっかりとサカナにアタックされる。少し黄色みを帯びているので アメマスかなと思う。入れ食い的にふたつのポイントでやってきたが、針がかりしない。 そして2度と出ない。3つ目に17cmのヤマメ、少しのぼってのち22cmのニジマス と対面した。#2でこのサイズであればもう十分だ。新しいクマスプレーを持参したので やや安心か。焦げ茶色の小さなイタチ風、オコジョ?に遭遇。ほか1台の車がいた。   7月28日(日)はれ 水温15.5度                        こういういかにもサカナが居着きそうなたまりではよそ行きのフライをつけてあげる。  川仙人さんから、本当にヤマメだろうかという疑問が寄せられて確認のため同じポイン トに入ってみる。状況は前回と同じで水温は好天でちょっと上がった。先発の釣り人はい ないようだ。今回はばらしをなくすようティペットを6xにしてポイントごとに浮力ある フライに変えることにした。まず、前回のヤマメのポイントに入ると、前回と似たサイズ のニジマスがきた。上と下、一時間ちょっとで6匹。いずれも15cmからせいぜい20 cmどまりのニジマスだった。う〜む、ということは前回のヤツもヤマメでなくてニジマ スだったのだろうか。                               クマスプレー「ガードアラスカ」。手早く抜いて、プシュー、 てなわけにいくのかどうか。練習次第。 「夏休み・雨の中を釣る」 雨 〜8月12日(月)と13日(火)〜 雨だからといって、フライフィッシングの研究活動を止める必要はない。雨の日は、雨の 釣りがある。昆虫たちが一見、水面上を飛んでいなくとも、フライにヤマメたちはちゃん と飛びつく。あるいは水面下にウェットフライという水生昆虫を模したフライを流し込ん でもいい。結構いい釣りができる。しかし、問題は水の濁りである。上流が森林だけでで きている川は、雨が降っても濁らないが、上流で工事をしていたり農業がなされていたり すると、たちまち濁流になる。場合によっては、養鶏・養豚場の糞尿が垂れ流される。垂 れ流すことによって安上がりになる生産や工事の負荷を川はまとめて飲み込む。これは許 せないことなのだ、本来。                             ●12日の昼過ぎ、家を出るときは、低い雲という状態だったが、白老に入ると霧雨にな り、やがてじっとりと濡れる雨に変わった。森野までいって本流に降りる。さすがに立派 な水量だが、濁りは消えている。枝分かれした川の右股の水量の少ない方でまず15cm ややオーバーのヤマメを釣った。12,3cmのパームサイズがいくつかヒットする。大 石、小石のポイントが多い。餌釣りの方にあったので釣果を聞くと、濁りのあった午前は まったくだめだったが、濁りの薄らいだ昼からボチボチ出始めたと言っていた。びくの中 を覗きこむと尺近いものも混じっている。本流の流心にいたもので25,6cmだとの こと。大川の中でポイントを探したりおおらかにウェットを使うのも好きなわたしは、大 きな白老川、特に上流が好きである。ただ、いろいろな工事も行われているので雨が降る と濁る。水温は14度。                              ●13日、夏休み最終日も朝から雨だった。しかし、どのくらい濁るのか、確かめに白老 川に行ってみた。案の定、水は増えてシルトのような濁りが入った。ポイントごとに丁寧 に攻めてもまったくあたりはなかった。いよいよ、雨足は強いが、濁らないもう一つの川 に寄ってみた。その間20分。水かさがやや多いので、林道入り口の広場のようなところ で川に入った。家族連れが川遊びをするところだ。こういうプレッシャーが多いところで も大水が出たりすると、サカナが動いて意外と大きいのが居着いていたりするのだ。やっ ぱり川の水はまったく濁っていなかった。雨の中、濡れたレインジャケットをもう一度着 込むと、カディス(トビケラの成虫を模したフライのこと)を流す。1,2分後、ゆった りした流れの中から17cmのヤマメが出てきた。これはうれしい。          うす濁りの白老川本流。まったく、反応がない。濁水を出す箇所がいくつか思い当たる。 本来なら、のんびり釣り上がるところ…。無念。 濁らない川に移ったらすぐこれが来た。海から2,3kmのぼったところ。 こんなゆったりしたところでもしっかりした反応があった。ウグイはいない。

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支笏湖の春夏秋