落葉期の雑木林こそ緑だ 緑色ではないけれど

NO.28

2004/11/07〜


落葉したばかりの林の明るい変化には
本当に驚く。衣替え、という言葉ぴったり。
これから、樹木にとってはどういう季節なのか。
エネルギーを貯めるのか、ひたすら休むのか、
はたまた黙考の時期なのか。
人は、この時期、ここで哲学をする。そしてしばし、
樹木相手の人相見になる。



マイナス10℃の仕事場にて           12月30日(木)快晴 −10℃ ツララはまだ赤ちゃんのようだ。これから生長する。小屋から間伐の現場へ 向かうときに思わずメットのなかにフリースの帽子を被った。       今日も仕事ができる幸運に感謝しつつ、林にやってきた。8時に家を出るとき、ふと思い 出して、庭で大きくなったハルニレを「ごめんね」と祈りながら根元から伐った。もう4 回目だ。直径10cmの切り株がすでに3つあった。垣根のイボタの苗に混じっていたも ので、隣の敷地に枝を出して暴れるので、毎年剪定をしながら数年おきには根元から伐採 せざるを得なかったのだ。広い敷地なら存分に枝を張ってもらえたのに、と思うとお互い が不憫でもある。それらを鋸で小さく切って出掛けにトランクに詰めた。この作業に20 分ほどかかった。 そして現場は、いやあ、寒い。暖冬で間伐にはまだまだ、などとうそぶいていたのに、こ こ数日はたじろぐ厳寒になった。おお、これぞ北海道の冬!だが幸い風がないので、マイ ナス10℃は快適な間伐温度だ。毛糸の下着の上にワイシャツ、そしてフリース、さらに 薄いウインドブレーカー的作業着を着て始めたのが、案の定ややして2枚を脱いでワイシ ャツ姿になった。 間伐してきたコシカタを振り返る。来年は林道の 両側が見事に紅葉するはず。          連続して2日仕事すると、疲れは体中に残っていても、仕事のリズム、身のこなしなどに ペースができるのか、なにか、いっぱしの木こりになり始めるかのような、そんな晴れ晴 れしい錯覚がある。膝ぐらいまで雪があるから、何をするのも楽ではないのだが、手と足 と体全体で見返りを求めず動くことには実は深い満足がある。呼吸も深くなって気持ちが いい。一応、作業の効率は考えるのだが、燃料を車に取りにいくのでも、忘れた鋸を取り にいくのでも、片道数10mを雪の中を往復せざるを得ない。身の丈の運動を一馬力でこ つこつとせざるを得ない。それしか方法がない。 おじさんの顔でなく、鼻の頭に注目。真っ赤である。 マイナス10℃はだてでない。           この非効率は確かに今風ではない。都会ではこんな非効率を笑うだろう。けれども、都会 にはそれなりの地獄がある。効率を人間の体が忌避して、システムは頭でっかちになって いる。「それがなんなのさ」と冷や水をかけると、持ちこたえられない脆弱な思い込みも 併せ持っている。手仕事は頭でっかちの時代にこそ、心の健康に役立つ。 年末の仕事に狂喜する           12月29日(水)午前:内外はマイナス10℃ 多少危ぶみながら現場に行くと、林道の入り口は踏み固められ落ち着いていた。ラッキー! ケアセンターに入る入り口にも鹿ハンターのわだちがあって安心して到達できた。幸運であ る。外も内もマイナス10℃。この温度では足の裏から冷えてくる。ストーブに薪をガンガ ンくべて10℃あまりに上がってから、つまり室温を20℃アップしてから、ようやく現場 に出る気になった。さあ、行こう! 随分思案した後に伐ったサクラ。枝先に花芽がたくさん見えたのだ。 周辺との関係から花芽のない方を残した。断腸の思いもあり、記念に 撮影する。                           汗だくのあと一息入れるためにヘルメットなどを脱ぐ。 日本タオルで額や髪を拭くと、休憩らしい。丸太はもち ろん雪まみれ。                    だが、現場は前半散々だった。チェンソーに燃料とオイルを入れてふたをするのを忘れた 。さあ、と持ち上げて運ぼうとしたときに混合湯の半分以上が作業パンツにこぼれてしまっ た。また、今日一本目のコナラの木が懸かり木になってしまった。丸太にする玉切り作業の さなか、目におがくずが入る。車に戻ってルームミラーを見ると、大きな黒い物体が結膜あ たりにウロウロしていた。あれは集中を邪魔するのだ。  遅い昼食に戻るとストーブのオキはもうほとんどなかった。木灰に埋もれたオキ火を出し て薪をくべたら2、3分でゴーッと轟音が鳴り始めた。食後、しばしまどろむ至福を味わっ たのは言うまでもない。                              
 
林道が閉鎖                          12月25日(土)はれ 脱出の後 とうとう林道の入り口で立ち往生してしまった。積雪は30cm以上、雪の下は氷。舗装 から林道の坂道を一挙に駆け上ろうとしたのだが、5mも行かないうちに動けなくなって しまったのだ。スノーヘルパーを出して10分ほどもがいて脱出した。パートナーの長老 に携帯を入れると「もう年内は無理だあ。あきらめて家に来いや」という。車体は腹をす っているのでここはさっと諦め長老宅にお邪魔する。そこでトウベツカジカの飯寿司をご 馳走になる。白身の、歯ざわりのいい珍味。もちろん、これは初めてである。 休日のブランチとなった飯寿司。外はこんな風景。現場は正面右奥あたり。 ビバルディの四季の「冬」に歌詞をつけた「白い道」がよく似合う雰囲気。  やはり、雪が落ち着かないと当分入れないだろうという。残念で仕方ないが、積雪がも う少し減らないと林道で遭難する。ここは自然という相手の様子を伺いつつ行こう。下手 すると年内は小屋に行くだけになるかもしれない。それも仕方ない。  帰途、持参したきらら397の玄米20kgを農協で精米する。袋から出して硬貨を2 00円入れ白米にした。所要時間5分で、20%糠を落とした白米ができる。玄米も今年 長老にお願いした物だが、地場のものを食することと、口に入れるまでに自分も食の作業 玄米を入れる。すると左下から白米がでてくる。 に参加したような気が少しすること、これが気持ちよい。しかも、ご飯が美味しい。こう いう行為の中にも風土に対する理解、もっと大げさに言うと悟りが眠っている。森や川と ひとつながりの恵み「米」をいただくことは、林を手入れする気分と実は同じ色をしてい る。 間伐が本格化する        12月18日(土) くもりのち晴れ  外気0℃から4℃ ウサギもささみちフットパスを歩いていた 荒れ模様の天気が続いて、雑木林はすっかり冬の景色に変わった。さあ、いよいよ間伐の 始まりだ、という気分になる。積雪は20cmもあってこの先が少し思いやられるが「そ のときはそのとき」「きっとうまくいく」。このまじないはよく効く。  札幌に出かける家内を駅に送ってから現場にたどり着いたら、もう10時半になってい た。今年の作業のパートナーである長老、こと斉藤泉さんはすでに作業の真最中だった。 わたしはログハウスのストーブに火を点けてから合流。長老もやはり浮世の用事が重なっ て仲々来れないのだと言う。それでも大分北へ進んできた。 小屋の冬景色。それとNさんのプレゼント「ケーナ」と教則本。 特訓にきたつもりが、ここで挫折したらしい。  前日まで横殴りの風雪だったようで幹に雪がついている。雪景色としてはちょっと落ち 着きがない。林内は枝が散乱しているので、これまた煩瑣な光景だが、あちこちに積み上 げられた丸太(140cm)が全体を引き締めている。こういった手仕事が山を守る。こ の手仕事以外、里山を育てる手立てがない。と同時に人はこの手仕事で自分の魂のような ものに出会う。また、手仕事はエネルギーを支える。自宅のエネルギーをこれだけで賄お うと仮にしたら、できないことはないがそのために捧げなければならない労力と心理的な 負担を考えると気が重くなる。だが、やろうと思えばできることだけは明記しておこう。 長老の作業  一服時(といっても二人とも吸わないが)に長老が「薪ストーブの暮らしに替えなさい 」と言うから「今度生まれたときにする」と返事。そう言ってから、「今度、人間に生ま れる保証はないよね、ほかの動物かもしれないからね」と笑いながら訂正した。今、であ る。でも、暮らしの様式を今替えることは至難だ。手仕事の雑事、四季の準備に追われる ことは必死だ。日本版ソロー・田渕義雄氏の著作をみればよくわかる。ただ、そのライフ スタイルが素材となって半分生業となっている。そんなライフスタイルへの憧れは、胸の 中で静かに点っていて、ちゃんと燃えているのはわかっている。


山ノ神にお参り                 12月11日(土) 4℃ くもり 先週、川島さんらがまきを積んでくれた いよいよ、雑木林の間伐を始める。斉藤さんは藪を刈り払ってくれたので大分こざっぱり している。斉藤さんの作業した箇所の北側で、今年初めての雑木の間伐を始める。まず朝 の太陽に向かって手を合わせ、仕事始めの挨拶の祈りをする。作業はまだ感覚がつかめず 、上を見て思案ばかりする。こんな風景を長老に見つかれば「いつまで上見てんのさ!」 「首痛くないかい?」などと冷やかされるのは必至だ。そうなんだ、にわか木こりは上( 枝)ばかり見ていて仕事が一向にはかどらない。それはしかし、抜き伐りに不可欠な思案 であり、そして骨休めでもあるから冷やかしにもめげずにマイペースだ。寒風が吹きすさ ぶ、本格的な冬になってきた。 間伐後の空はスコーンと開ける  少しペースがついてきたころ、程よい時間なので山ノ神のお参りに行く。夕方までいく つかの雑事をこなさねばならないから、今日はこれで作業をやめることにした。ツタモリ 山林の御神木に、ささやかなお供えと上げ潮をする。前日、会社の山ノ神の参拝があった ようで、お神酒とりんごとバナナがあいてあった。わたしはそこへビールとお神酒のほか 、おにぎり、りんご、チーズと珍味。とてもいい年であったことに感謝し来年もみんなが 心身ともすこやかに暮らせるよう、ありきたりだがこれ以上望めない願いを独り捧げた。

御神木と鳥居

間伐を段取りする                   12月4日(土)雨のち曇り 斉藤さんと今年の間伐の打ち合わせをする。5ヘクタールを確保したのだが本当に春まで できるだろうか。少し心配だが、悠々自適の斉藤さんがいるからまあ大丈夫のはずだ。そ れに万が一残れば来年に回すだけのことだ、と湧いた不安をかき消す。斉藤さんはまずブ ッシュカッターでササやブッシュを刈り払ってから抜き伐りを始めるのが常で、これから その作業が行われる手はずだ。抜き方は中庸を目指す。濃すぎず、薄からず。試しに間伐 したエリアでおおよその間伐率を確認。  10時、ツリークライムのため川嶋さんがやってきた。今日はレディスネットワーク2 1の面々がログのまわりでツリークライミングなどをする予定になっているのだ。わたし はログをストーブで暖め、ログの前に焚き火をしておく。三々五々メンバーが集まってき て、ピザ釜にも火を入れた。幸い、みんなの集まる直前に雨が上がり、夜からは大荒れの 予報だから川嶋さんはラッキーだ。天候の隙間にいる。 この子に焚き火や林おじさんたちはどう映っただろうか


カラマツ風倒木の整理はもうやめた          11月28日 曇り時々小雪 0度c 今年一緒に作業する相方のSさんは少しずつ雑木林の 間伐を始め、材も道路わきに出してきた。 2日前の強風でまた風倒木が出てきた。先週の目算ではあと半日も我慢すれば、昨年整理 した一帯の風倒木はすべて片付くはずだった。そこに新たに加算‥‥。これではエンドレ スだ。もう止めて、地際だけ切っておいて冬の間に倒れるのを待とう。  ナチュラルトレイルを歩いてみる。沢筋から尾根筋の高みに這い上がるだけで、随分気 分というのは高揚するものだ。この時期の林は一見殺伐とし、殺風景だが、たたずんでい ると不思議な幸福感に包まれる。これはぜひ紹介したい雰囲気なのだが、言葉で表すのは 至難だ。日がな、こんな道を歩き、小屋に戻って焚き火をする、そんな一日はあっていい と思う。 あくまで明るい林。 風倒木の根鉢が戻る音                  平成16年11月21日(日)快晴 土曜日にいろいろな行事が集まり、結局個人的な用務は日曜日に回されるようになってき た。実は山仕事は本当のところを言えば土曜日にしておいて日曜は読むか、書くか、そん な風に過ごしたいところ。
左右バラバラの手袋をして、首に日本手ぬぐいを巻く。
 快晴の現場に9時前に着いた。ストーブをつける前に、森林ボランティア研修に受講生 で来てくれたKさんが九州の人と現れ挨拶と近況報告。まほろばコースで迷ったというエ ピソードも聞いた。やはり‥、要改善だ。二人はそのままささみち散策に入った。わたし はまだカラマツの風倒木を片付けている。もう一回やればいいところまでいく。根返りし たカラマツを何本も整理していると、根元にチェンソーを入れて切断の間際に、ググ、ギ ズルッとずれた。年輪をみるととても生長の良いものだった。 ギと木が鳴って樹皮が裂け、根鉢がユサッと3分の一ほど戻る。ものすごい力がかかって いるから、チェンソーが跳ね返されたり、挟まったりと多種多様。            仕事を始めると止まらなくなり、丸太も運び出したから、おにぎりを2個食べると眠た くなってストーブの前で転寝をした。                        先週の宴のあとの酒。そして、何事もなかったかのようなログ。 教授、薪をくべるの巻                11 月13,14日(土、日) 長老とポスターの前で。シェフは黙々と下ごしらえ。 苫小牧のNさんが拙著の出版記念祝賀会をログハウスで開いてくれるということになって 夕方の宴用の素材を買出しして現場につく。朝昼兼用の腹ごしらえをしてから風倒木処理 の続きをやる。宴の前は気もそぞろになりかねないが、そこは年の功、冷静沈着に作業を 終えた。三々五々、数人が集まってくるので2時頃にはもう小屋の前のセットに入った。  Nさんは、写真のような大きな本格的ポスターをベランダと中に一枚ずつ貼って、盛り 上げてくれる。札幌から「シェフ」がやってきて安着祝いでビール。きりんさん、厚真の 「長老」、そしてもうひとり札幌から「教授」がランドクルーザーで到着してフルメンバ ーとなった。宴の前に薄暮の林の道を案内する。 シェフ,撮影。左から教授、わたし、きりんさん、Nさん。  宴は案の定、快適だった。教授は使い放題の薪に狂喜していた。長老はさすがに風土の 話になるといちいち話によどみがない。きりんさんは、わたしらに比べ随分若いのに、地 域の故事来歴に実に明るくなんでもすらすらとウィットに富む回答をリリースした。シェ フは比較的寡黙だが時折本質をポツリ。音頭をとってくれたNさんは近江の人らしく話題 をうまくまるめつつ酒をいく。近江牛のすき焼きをご馳走になったが、牛肉とはこんなに 美味しい物だったかと述懐。シェフのセットした天体望遠鏡でわたしはスバルのひとつひ とつの星を丹念にみた。すごいアップなのでほとんどスバルのイメージはなかったが、肉 眼で見る星の固まりは拡大するともっと星屑が散らばって圧巻。 アイスバインから、ハブ酒まで。焚火もつまみ。  真夜中近く教授のくべる薪ストーブの熱にうなりながら寝た。と、朝の4時、教授は「 この辺の地質と土壌はどうなっているのだろうか」と突如誰ともなくご下問された。地元 民はそれに忠実にご進講。まさに風土に明るい民の総力戦である。と、まどろみつつ6時 、7時となる。 ツタモリのすっきりにホロリとする 仕事はじめと落ち葉の循環トイレ               11月7日(日)晴れ 今日からいよいよ16年の作業を始める。そのためいつものように「つたもり山林」の山 ノ神に8時過ぎ、独り参拝した。小屋では念入りにチェンソーをチューンアップした。ア イドリング状態の回転数を下げ過ぎて時々ストップするからだ。小さなドライバーで少し ずつ回転数を変えてみた。時々不調のプラグも交換。これでまず大丈夫だ。        初仕事は風倒木の片付けにした。傾斜木は、何かに引っかかっているわけで、それなり に伐りにくい。木が動いてチェンソーがはさまれること3回。腕組みしていても仕方がな いので、鋸を使ったり、太い丸太でたたいたり、とにかく臨機応変に対策を練ってその場 をしのぐ。直径が30cmほどのカラマツやサクラだったが初日はざっとこんな按配だ。 こんなにあかるくなったのでした!  初日はこれくらいにしようと11時半に小屋に戻り、今日はじめての食事を手にしたこ ろ、fmさんがおいでになった。13日、拙著の出版記念をログでやってくれるのだが、 の下見だという。トイレ用のフライシート、その他準備するものの点検である。わたしは 、トイレの求めに応じて、その一帯をブッシュカッターで刈り払い、そこに落ち葉を一輪 車で6杯運んだ。用済みのあと水を流す代わりに、落ち葉をかけるのである。落ち葉は微 まさに天然のバイオトイレ 生物の塊で、伐根を分解させるのにもっとも経済的で早い方法は「落ち葉をくわえた発酵 」だと聞いた。その落ち葉だから、人のウンコや紙は容易に分解してしまう。うず高く落 ち葉を積んでみると、エコロジカルである。                     なごみのフッキソウ群落



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