さあ、今年の雑木林はどんな春が待っているか

NO.30

2005/03/05〜


昨年秋に拙著『林とこころ』を出してから、さすがに
訪問の問い合わせが出てきた。これまでもHPなどをごらんになった方々が
ネットでも、そして直接現地へもおいでいただいたが、ちょっと今までとは違う。
でも、だからといって特別なおもてなしを出来るわけでもないし、
よそゆき用に模様替えできるわけでもない。
あくまで、ありのままの素顔を見ていただくしかない。
稚拙なかかわり方で、土地のいい顔を存分に出し切っていない、
という反省がわたしにはずっとあるけれども、稚拙である分、
自分もやれる身近な森づくりとして、勇気や励ましのメッセージにもなる、
と勝手なヨミをしている。

さて、この春はどんな風に始まるか?!


フットパスをひらく                                                      4月30日 はれ 13℃ 

高知産の薪割りおのを新調。太いナラも
すべて一刀両断できた。恐るべし

フキの茎はまだ15cmほど。フキノトウと
混在
連休2日目は田中林業で薪割り用の斧と予備のプラグを買った。親父さんらとちょっと
お茶のみ話をして10時過ぎに林へ。すでに足場などを用意してくれてアカシヤの皮むき
も済んでいた。着替え中に長老が顔を出して、小屋リフォームの段取り。1日、3日、7
日に作業しようと相成る。                            
 フットパス「からまつ」の道を開くべくチェンソーをもって逆ルートから先週の終点=
事故寸前のシラカバあたりに向かう。途中、分岐点でツル、倒木、枯れ木などを切って片
付けているとボタボタと汗。シラカバのポイントに行って無事だったことを改めて感謝す
る。                                      
 遅い昼食後、鎌をもってナチュラルパス「まほろば」を歩いてみる。快適な春の雑木林
を満喫し、日当たりのいい斜面で2度、樹林気功状態を創ってみる。帰省中の子らにもフ
キノトウとホッキのかき揚げを食べさせようとのつもりで、少しトウのたったフキノトウ
を採取。近間には若いフキがあったのでそれも初物としていただいた。早春の雑木林には
葉っぱのある季節には味わえない「喜び」がある。緑のない今の時期、はるかに緑的雰囲
気がある、という声は残念ながらあまり聞かない。                


「危なかった!」猛省の記                                                 4月23日 曇り、風強し 5℃
ログハウスの丸太の一部が腐れ始めたので、雨が落ちないように屋根をベランダまで伸ば
そうというプランが、昨年、長老からあがった。今日、その屋根の土台になるアカシヤの
丸太を伐採して小屋の前に二人で運んだ。4.5mのそれは非常に重たかった。軽トラッ
クで引っ張り出して、ようやく1本ずつ運んだ。                  

 そのあと一人で1時近くまで薪作りをして2時過ぎからフットパス「ささみち」と「カ
ラマツ」に倒れている幹をチェンソーで切断しながら片づけを始めた。順調に仕事は進ん
で、気持ちのいいカラマツの沢のシラカバの幹折れを手がける。受けを作って反対側に移
動して2秒後、その幹が音もなく落ちるのが見えた。イアマフをしていたので何も聞こえ
なかったのだ。幹を持ってみたら重くてちょっと持てない。辛うじて引っかかっていたの
が振動で簡単に落ちてきたのである。やばい!危なかった!頭を直撃されていたら、命に
関わったはずだ。ヘビーな仕事はするつもりがなかったから、ヘルメットではなく、帽子
にイアマフという軽い格好だった。これもまずい反省材料だ。            

 心を鎮めて隣のシラカバノ風倒を手がける。根返りの幹は力の入り方が微妙に読みにく
く、わたしは上に受けを作り下からチェンソーを入れた。と、みるみるブレードは締め付
けられてしまった。これは絶体絶命とすぐわかる力の入り方だ。春のシラカバだから、切
れ目から樹液が滴る。たくさんあふれるからとりあえず舐めてみる。長老宅に電話し、チ
ェンソーを借りに行くことを話す。長老宅では、息子さんとふたりでちょうど手伝いに来
てくれる段取りだったようで感謝しつつ現場に戻る。簡単にチェンソーは回収できたが、
ことの顛末を話すと「上をよく見ないと危ない」「こういうときに限ってヘルメットをし
ていないことがあるもんだ」と長老。深く反省すると同時に、わたしを守ってくれたもろ
もろの神に何度も感謝したのだった。                       

2本のアカシヤ丸太

絶体絶命!

長老が救援に駆けつけた

山形のケヤキ                                                                   4月18日(月)

ほっとする屋敷畑

遠くに望むこんもり

壮観
出来るだけいろいろな樹木に会おう、大木があればよって触れてみよう、そう決めてから
は結構出会いがある。そうなのだ、人間との付き合いと同じようにこちらから積極的に心
を開けば出会いは生まれる。                                                      

 今回は、週末に山形の実家を訪れた。好ましい原風景ともいえる「田園景観」が待って
いたのだが、このたびはいつもは気づかなかったケヤキの大木を発見。発見というのも失
礼な大木。「わたしの方がはるか昔からここに居る」と静かにさとされるような荘厳なた
たずまいだった。直径2m以上、高さは30m以上。伸び伸びと枝を張り、台風だってあ
るはずなのにこの堂々とした姿は何と言えばいいだろう。                            

 今までだって見えていたはずなのに、意識には見えなかった。そこですごすごと寄って
みる。ジョウレン寺というお寺の境内で、県の保存ジュになっていた。そこに背をもたせ
て例によって静かに呼吸する。体が段々リラックスしていくのがわかる。体が感じる樹木
はこれでカラマツ、トドマツ、ケヤキ。特にケヤキと出会ったときに起こる変化が一番ハ
ッキリしているようだ。樹種なのか、大木のせいなのかはわからない。 
何なんだろう。大木との出会いというのは、
やはり土地の古老との出会いのような、
そんな世界である。


里山作業とはこれだ                 4月9日(土)くもり、強風 6から10℃c

 

 
朝7時、長老から電話。「林道が通れるぞお」、文字通り出てきて
作業しようという誘いである。てっきり今日はないと踏んでいたの
で前夜はKさんの追悼会でしっかり飲んでしまったのでいささかつ
らい。それでも10時前に小屋についた。気温は6度Cだからスト
ーブを点けてからおもむろに小屋の前の広場作りを始めた。   
 随分間伐してきたつもりでも、夏はうっそうと暗くなり小屋に日
が射さない。また癒し系のフットパスの起点にしては暗い。インイ
ンメツメツと感じられるようではちょっとまずいと考えていたので
ある。そこで、長老が倒してわたしが薪用に玉切る。折りしもゴー
ッと林がうなっているような風の強い日だから、倒れる方向には気
を使う。長老は楔を使って調整した。2、3本はわたしも手伝って
押し倒した。                             
 この林の作業履歴によると、昭和26年に皆伐されたことになっ ている。恐らく薪炭用に伐られたのだと思うが、その年はわたしが この世に生まれた年。だからここの樹木はわたしと同い年の53。 年輪を数えてみると48か49まではわかる。やはり皆伐されたあ と、萌芽したものだろう。年輪幅はいろいろ。元気のいい年、環境 の悪い年など、わがコシカタと重ねる。


 小屋の周りをアズマシク(快適に)する作業、これこそ、里山作り
の醍醐味だ。こんな風な積み重ねで今の小屋周辺はある。今日の作業
はまさに里山作りの重要なイベントであるし、こうやって初めて気持
ちのいい手自然の世界が現れてくる。わたしには至福の時間。      
 7、8本倒したので、細い枝まで玉切ると2年分ほどの薪が誕生す るのではないか。わたしは、長老が帰った午後も、こつこつと玉切り を続けた。ちょっとさびしげにぽつんと建つ小屋はすこし憂鬱そうで 美しい。林はもちろんベストだ。                

春を探して                      4月2日(土) 曇り時々晴れ 無理して悪路の林道には入らない。道も車も壊れかねない。それで今日は、好みの得意先 めぐりをすることにした。どんな春のサインがあるのかも興味がある。緑ヶ丘の展望台は ようやく車道が開通したような感じで待ちに待った散歩客がポツポツと。この界隈に住む 市民はラッキーだ。南斜面だけ雪がない。北大研究林は園地の池にマガンが寄ってきて陽 だまりは癒しの場になっていた。ベンチでのんびり話し込む風景になごみあり。     
  こうやって談笑するのは命の
洗濯かも。自転車で来るところ
がいい。開けた園地は緑の入
り口である。
 神社に登ってみるとそこは研究林の南半分を一望に出来るイヤシロチだ。神社は尾根筋 にあるから風も強いがキタゴヨウの根元にもたれて日向ぼっこする。庁舎まわりはちらほ ら訪問者が絶えない。ゴジュウカラ、ハシブトガラ、ヤマガラ、シジュウカラ、アトリを みた。例に拠ってホーミーをうなると3,4mの近さまで寄ってくるから、グラスがいら ない。                                     
 
市民の水源地でもある幌内川。
雑木林を抜ける風情はやさしい。
  
市道沿いのナラの大木。直径は1m以上。
樹齢200年ほどか。
  
ウトナイにはマガンは一羽も居なかった。 4月の頭だからいつもならもう南に渡った はず。でもすごく湖面を渡る風は冷たい。
 苫東へ行く途中でヒバリを発見。つたもり山林で樹林気功。直径が60cmほどある  トドマツ、カラマツ、ヤチダモ、ハルニレと対面。自分も樹木になったイメージになると 自然というのか環境というのか、そういった漠然とした世界に自分の体が開かれていくよ うな感覚を覚える。                               
 

 
やはり、ツタモリの入り口は樹木と語る広場として
恵まれた環境だ。樹木が太く、郷土の樹種があり、
種類も多い。かつ、日当たりも悪くなく、ややおごそ
かな雰囲気もある。このうちで、もっとも得がたい要
件は太さだと思う。勇払原野には大木らしい大木が
少ないから。かなり強い頑固な意志がないと、大木
は守れない。
池ではアカガエルの合唱がするので忍び足で寄ってみる。 もう産卵が始まっていた。蛙たちは警戒して底に潜ってし まい鳴き声がしばらくやんでしまった。ごめんとつぶやく。 毎年この時期、アカガエルの大合唱や産卵、マガンの渡り が、人と生き物は互いに環境をシェアしていることを強烈に 印象付ける。その印象は一年持続するから相当なものだ。 うん。(4月からちょっとレイアウトを変えてみました)
  チェンソーうなる                        3月26日(土)くもり 林道に入れなくてもともとと半ば諦めつつ林道に入る。夕べの新雪のあと入林した形跡が ない。行ってみるとまだ水溜りが出来た気配がないので、そろそろと現場にたどり着く。 そろりそろりと車を進めたつもりだが、後輪が氷をやぶり水溜りに沈む。冬の眠りについ ていた春という子供をわざわざ起こして歩くような感覚。うん、そんな感じだ。なぜなら 結局2往復したのだが、午後戻るころには完全にあの忌むべき恐怖の春の池に変わろう  としていたから。一度出来た池は雪どけ水を集めてこのまま精力を拡大する。       でも、チェンソーをかついでしっかり仕事した。カタ雪状態なのだが、体重をほぼかけ きったところで、長靴がズブリと沈む。あの何ともいえない厭な徒労感を伴う雪の行軍。 現場は林道からわずか100mほどなのにアプローチに汗をかく始末だ。最近までささみ ち「カラマツ」の沿線を片付けているがもうすぐ林道に出る。ちょうど小さな尾根のてっ ぺんにあたるそこは、ウルシのほか枯れ木もあってそれらをまず地際から伐ってから太い コナラの風倒木に手をつけた。やや無造作だったかもしれない。半分までチェンソーが入 ったときにバキッと音をたて幹が割れ、チェンソーのブレードがばっくり挟まれてしまっ た。やばい!これは修復不能!直感のとおり現状は打開できず結局、長老の家にチェンソ ーを借りに行った。誰も居ないのでビニールハウスの入り口にあったコマツゼノア448 を寸借して現場に戻りわがチェンソーを回収。仕事続行。この間30分。         久々の力仕事はさすがに気持ちがいい。筋肉痛が心配。陽光はもう春のそれだから、一 年ぶりにサングラスをかけての仕事だった。デジカメを忘れたので今日は画像なし。昼休 み、ストーブにアオダモをくべたら、やはりいい香りがした。あれだろうか。     


アオダモの実験                        3月20日(土)曇り 野球のバットに使われる樹木「アオダモ」の検討会に呼ばれたりしてこのところアオダモ が身近に感じられる。先日ログハウスから平木沼までスキーで歩いたときにも、よく見る と数百メートルおきにアオダモが見つかった。しかし、やはりコナラやミズナラの出現頻 とは極端に違う。少ない。                              今日は北大農学部での同期の矢島教授がアオダモ造林の生育調査の下見でやってきたの で、長老と二人で案内した。教授は海から1kmにありじめじめしたこの地のアオダモが 、予想以上の生育を見せている理由が見つからないと不思議がっていた。それほど元気が いいのだ。一方、わたしの興味はアオダモの薪としての特異性だ。山の先輩・松田橿教授 によれば北大山岳部はアオダモが薪に適していることはつとに知っていて重宝していたと いう。わたしたちWV部では少なくともわたしは知らずに来た。松田教授が「やはり山岳 部はインテリジェンスがあった」と語ったという話を残念ながら悔しさを多少味わいつつ 矢島教授に聞いた。この悔しさはいい感じだ。                     松田教授のほかにも、最近何人かの山仕事に詳しい人たちにアオダモの話を聞いている と、アオダモは生木でもマッチ一本で点くとか、山の調査ではアオダモのそばで昼飯を取 ったことを知った。やはりアオダモが良く燃える薪としてすぐ使える特異性を知ってのこ とだ。                                       そこで今日は、株立ちの細い1本を小さく切って実験してみた。@よく燃えるか、Aマ ッチ1本で火が点くか、B水につけると水が青くなるか、を調べるのである。Aは、生木 の樹皮を剥いでマッチで火を点けてみると、ボーと燃え縁がオキ状態になった。量がまと まってシラカバの樹皮(がんぴ)や新聞紙があれば一発であり、なくても可能だろうと思わ れた。@は長老がストーブでやってみたらいい塩梅だったという。Bは確かに1時間もた たないうちに色が着いて来た。いずれも経験知だ。おお、すごい、と山人とアオダモに感 動した。昔、山仕事をしたことのある60台後半、70台はたいてい知っていたのだ。  樹皮はとてもむきやすい。生木なら木工に向いているみたい。庭で燃やしてみた。 すぐ火がついた。なるほど、である。  ちなみに今週、来週は林道の水溜りがすごくて車は進入が難しいと長老の話。で、また もや断念。出張明けのなまった体はさてどうするか?                 裏山の物足りなさ                       3月13日(日) 晴れ この2日で雪が20cmも積もった。昨日は、午後札幌で会合があったので現場に行くの は見合わせたが、もし行ってもすることが制限される。今日も基本的に同じだから、町内 の裏山に出かけることにした。春の日差しを浴びた斜面の雑木林には、イヌの散歩に来る 人たちの足跡、イヌのおしっこのあとで賑やかだ。                  家のそばから裏山を望むと小高い丘に見える。一応、支笏湖までつながっている。 林の中にはしっかりと雪道がついていた。                    この裏山は民有地だが、結構市民が入るところだ。さらに裏は土取り場でその奥は有珠 の沢という住宅地となり、送電線の線下地に残された林が地山とともに国有林へつながっ ている。よく歩くところだが、やはりとりあえずつぎはぎで残された林に、満足は出来な い。「他人の土地を歩く」以上の感慨が湧かない。もっと深い、強い付き合いがないと満 足できない。美しさとか新鮮な感動や驚きと言ってもいい。たまたま残ったパッチにはそ れらがない。そのうえに、木を切るというどぎつい、激しい付き合いから見ると、散策と いうのは付き合い方の上ではとてもゆるりとしたもので、手ごたえがない。       道は土取り場にでて、樽前山が見える。海側には、山と市街地の境界がみえて、 王子製紙の煙突やのっぽなホテルが見える。美しくはないが、町の常風景だ。   あるだけでもいいではないか、という声もありうる。でも、存在効果もあり様次第だ。 どのようにあるかが問題で、そこまでデザインしないと林とこころは本当に近くはならな い。林とどっぷり付き合う時間がないときは海に行ってみるのだが、自然にオキから寄せ てくる大きな波と、海の先が異国に続くという明らかな連想が、抗しがたい自然のイメー ジとしてわたしを包む。林や海は師である。                    
春の日差しが                        3月5日 晴れ 3℃ 林はウサギとそれを追うのかキツネとイヌの足跡が一杯だ。そんなフィールドに 踏み込んだ途端、家内の靴底は剥がれた。苦笑して小屋に戻るワイフ。     「明るい日差し輝き、白雲とけて流れ…」というドイツの山の歌が浮かぶような、そんな 林に家内とやってきた。おそろいの歩くスキーでツアーを始めた矢先、「レレレエ」と家 内の声。スキー靴のソールがはがれた。やはりこれは接着剤の寿命だ、あきらめよう。と わたしだけ尾根筋を小一時間ワンデリングする。風はなく、鳥もシジューカラの一群と1 0分ほどホーミーを鳴き交わしただけで、声がしない。もうすぐ、マガン・ヒシクイが渡 ってくるころだ。  かつて先鋭的な山女でも会った家内は小屋のストーブの前で仕方なく本を読んでいた。 よく見ると拙著。「なにも私の本など読まなくても…」とわたし。「どこかに間違いはな いかと思って」。なるほど、内助の功だ。間伐のパートナーである長老のお宅に寄ると、 長老も雪がまだ多くて仕事はしないと言っていた。作業はもう少し足踏みするが春の日差 しになってきたから、材の運び出しは近い。



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