長老との里山づくり

NO.31

2005/05/01〜


Sさんという地元の長老は、わたしの山(ここでは林のこと)の先生。
かつて山仕事を一緒にしたことのある仲間でもあるが、
昨シーズンから小屋周りの間伐の強力な助っ人として本格デビューとなった。
だから昨シーズンはうんと間伐が進んで、そのついでに腐れが入り始めたログの
丸太を保護すべくひさしを伸ばすこととなった。
抜き切りで明るくなった小屋の周りは益々ひと気がついてきそうだ。
これでこそ、北海道の「新しい里山」と言える。




草が伸びる                     6月26日(日) はれ 23℃

先週から猛暑がやってきたから、草の伸び方が尋常でない。小さな庭の、かつて野菜を植
えていた部分は、何か植えるプランを練ろうとしていた矢先、スイバやスギナのブッシュ
になってしまった。庭作りの前の草取り。これはズッシリいやに重たく見たくない。雑木
林の入り口、フットパスも、2週間でまたササや雑草が伸びた。エライコッチャ!黙々と
小屋まわりと奥のササミチの一部を刈る。ワイヤーのカッターにしてから顔・体に草の露
が「しとど」飛んでくる。ウルシもあるから要注意だ。               
 そこへ長老が奥さんとやってきて一服。奥さんが「やっぱり、林のなかって気持ちいい
ねえ」とベランダの丸太に座っておっしゃる。雨上がりの雑木林は葉を開いてたった3週
間で夏の様相だが、蚊もおらず快適そのもの。新たにできた広場に日が差して異様に明る
い。                                      
このテラスはもともと、大地とくっついた憩いの場、とい
うイメージだった。地面に直接座るよりやや気持ちよいス
テージ。本当はヨガをここでしたかった。 が、      
残念ながら、夏は蚊がやってきて心穏やかでない。冥想
はチリジリになる。でも、とヨガマットを用意した。敷いてみ
たら、これは結構いい。今日は蚊が居なかった。     
             

小屋の前の広場にはこんなに日が差す。
これなら芝も生きるだろう。林に空のあいた
空間があるとほっとする。


長老夫妻とベランダで。屋根のひさしは
ほんと正解だった。憩えるし、しのげる。


梅田先生訪問                                        6月18日(土) 曇り18℃

農地・農村の景観などで道内各地で幅広い提言をしておられる北海道大学名誉教授の梅田
安治先生ご夫妻がわたしたちの里山を訪問された。拙著『林とこころ』は実は先生の後押
しで世に出たものだ。だから、いずれお招きせねばと考えていたのだが、間伐材の整理や
小屋の修復など準備が終わらず、やっと実現したものである。JR南千歳でお会いしてから
「ミニ美瑛」とわたしが勝手に呼んでいる植苗の田園景観を経由して、柏原展望台、つた
もり山林をめぐり、ログハウスに着いた。                     
                     
展望台からは苫東は今日も樹海に見えた。奥様は「360度の樹海ね」とおっしゃる。標高
が低いための「錯視」だが、耕地防風林のふんだんな柏原ならではの風景の現象である。
この環境を上手に使えないのでは、土地の付加価値を活用したことにならないし、これか
らの地域開発のモデルにもなりえないだろうと思う。土地の神様が使ってほしいと思う方
向に、活路が潜んでいるような気がする。つたもりの「しいたけ乾燥小屋」は先生の遊び
心を刺激したようだ。基本となる躯体=レンガの部屋が堅牢だから、屋根を復旧して「燻
製小屋に変身」というのがそれ。わたしもここはエゾシカの餌付けの施設とオオウバユリ
の栽培地などで思い入れが深い。時々山ノ神に参拝しにも来る。時の流れで餌付け施設は
撤去され、オオウバユリは無惨にも雑草として刈り払われた後だった。時は巡る‥。  

早速、雑木林のフットパスを歩いてもらい、一周してログに戻る頃には、家内が用意して
くれたBQのセッティングもほぼ出来上がっていた。先生はやさしいコナラの林とミズナラ
のそれとの違いをいち早く見抜かれ、今年間伐した「手自然」の雑木林を、「なるほど、
結果は歴然だね」とちょっと面白そうに写真に収められた。ひょっとすると近いうちにど
こかのエッセーに載るかも知れない。                       

先生は大木である。「大木」の眼力がやさしいコナラの雑木林の特長を見抜いて好感を寄
せてくれる。強力なバックアップ的存在に意を強くする。わたしは先生の農や林への思い
に通底するものを感じ、話は尽きない。時間をオーバーして、雑木林と田園の境界(山の
辺)、社台ファーム、早来の酪農地帯を通って空港にお送りした時はもう4時近かった。 

小屋にて。



natural trail 「まほろば」の分岐点にて。





柏原の展望台で久々に霧に枠
どりされた樹海に出会う


畑は牧草や麦に変わっていた

林と畑を交互に抜けていく
新緑にぬれる春祭り  6月11日(土) 曇り 18℃
こんなに季節の変わり目が明瞭な北海道で、四季の変わり目それぞれを明確に打ち出した 「季節祭り」の歴史と伝統はない。だからわたしは個人的に「冬祭り」とか「春祭り」と かをする。今更、はやらそうなどと気色ばるのでなく、淡々とうちうちで。なにせ、自分 のために、こうした節目に到達できたことに感謝するのが目的だから、あくまで地味でひ っそりである。祭りだから少々宴のような形式もとる。                今年の春祭りは古い苫東時代の知人と家族13人が山菜をとりながら、新緑の雑木林を歩 いた。これも春祭りと密かに呼んでいるのはこの私だけで、みんなは山菜ツアーというこ とになっている。残念ながら、目当てのタラノメとウドにはもう遅かった。       それにしても過度にいじられていない大地というのは、かくも人を開放するものだという ことを痛感する。つまりそれは農地に代表される半自然の快適さにつながることだと思う。 特に目的ももたず、ただ自然の中を歩くウォーキングすることを休日の過ごし方のカテゴ リーとして加えるだけで、大地の見方は変わる。参加した方達のこころに今回のフットパ スはどう映っただろうか。                             「小さな宴」のようなものは改築された小屋の前で行い、改築祝いもかねていただいた。 主賓となるべき長老は仕事で不在だったが、長老の歳を感じさせないバイタリティーに賞 賛があがり、歓談は長く続いた。コナラの雑木林には本当に女性がよくあう。      関係者が運んでくれた小屋の前の土を広場に均す作業も、Bさんの指揮のもと、宴の前に 人海戦術で果敢に展開された。Hさんは、薪割り専用のおので、薪割りに打ち込んでおら れた。                                      ちなみに、夜、長老から「均した土の上にさっそく、芝まいたよ」と連絡が来た。春の仕 事はこのように畳み掛けるように進められる。また、夜9時頃から、本格的に雨が降り出 した。雨と雨の合間を、わたしたちはもらって春の一日を共有できた。その幸運に合掌。 地元はBさんとわたし達夫婦だった


フットパスを刈る                   6月4日(土) くもり 15℃

磨耗したブッシュカッターの一枚刃の換えを買いに田中林業に寄った。親父さんは前と同
じように、この刃を使って発生した事故の話をし、わたし自身が不安を抱きつつやってき
たことを痛烈に思い出した。「怪我してからでは遅い」。この言葉で今年からワイヤーのカ
ッターに変えることにした。もっとも納得のいく言葉でフンギリ。          

小屋について早速刃をはずしワイヤーカッターに交換して試運転。トルクが低くてエンス
トを起こすがまずまず。そのまま、小屋へのアクセス部分と「ささみち」を刈り込んでい
く。若々しいササが元気に萌え出ており、刈り時かも知れない。と、時計をみるともう1
時だった。フットパスにブッシュカッターを置いて、そそくさとおにぎりを食べる。そし
てまたすぐ再開。ワイヤーで刈り取られた草や枝が顔に飛んできて、湿り気のある草は顔
やメガネにへばりつく。ツタウルシもあるから、かぶれるかもしれない。こわ!一周して
小屋に戻り回りを刈り込んで終わった頃、ちょうどガス欠になった。         

先週、広場と道のくぼ地に4トントラック3台分の土砂を運んでもらった。長老にトラク
ターで押してもらう予定で、そこに撒き芝を施したら環境は大分かわる。(昼前に苫小牧の
小山さんが来訪して歓談)。                            

この1週間で緑の濃さが断然違う。来週はさらに深みが増しているはず。       
顔に飛んでくる草のツユや枝を防御。

つたもり山林に寄って見る。ああ、心が洗わ
れるような緑だ。                

山の神におまいりをする。

赤い屋根、黒く塗ったベランダ、いずれも
コナラの新緑に調和してる!        


昼前、すべてが完成し、長老がバンザイする!

赤い屋根はとてもいい目印になる。

春うらら。雑木林は快適だ。
ベランダの屋根が完成する            5月29日(日)曇りのち晴れ 14℃

とうとう最後のトタン貼り付けとなる。9時に作業を開始して11時ころ、フィニッシュと
なった。完成した瞬間は長老にハりの上でバンザイをしてもらった。基礎を掘ったのが5
月1日だからちょうどひと月。段取りと準備万端を取り仕切ってくれた長老に感謝。腐れ
始めた小屋は、これで何年か延命するはずだ。昼食後,ベランダの床やてすりに腐食防止
のため廃油を塗った。ずんずん滲みこんで行くそれは腐食の速さを髣髴とさせる。     

コナラの新緑が芽生え始めた。本来なら、芽生えの雰囲気をただただ味わいつくす、そん
な時期だったのが、今年はじっくり仕事をすることになった。色々な作業が、里山にはあ
るということだ。こうした「営み」がない「場」はとうまく維持できない。その営みは、
昔はコミュニティがしたかもしれないけれど、ここはわたしと長老の2人の関係者。これ

きっとここではコミュニティと呼んでいいのだろうと思う。                          

サラリーマンが独りで1シーズン1ヘクタールの手入れができることはわたし自らの経験
でよくわかったが、これが年配者と手を組んだらこの数倍が可能、という解はわたしにい
ろいなことを考えさせる。                            






雑木林の夕方はカムイミンタラ            5月21日(土)はれ15℃

朝、段取りの電話を受け9時過ぎに現場に着く。すでに屋根は垂木(たるき)がうってあ
り、破風(はふ)や控えなどを取り付ければトタンを張ることが出来る状態。高いところ
は長老が引き受け、袖の一部はわたしがへっぴり腰で手伝う。ログビルディングをしてる
時には我ながらたくましかったが今は完全に気持ち的に腰が引けている。       

10時過ぎ、胆振支庁の井阪さんらと岩見沢の川原さんが来訪。林の紹介の後フットパス
を歩いてみる。雑談が楽しい。一番美しい今の時期をみてもらって嬉しくもある。いつま
でもいたい、という気分にさせる日和だ。                     

長老と別れた4時過ぎ、古い腐った薪を片付けた後、小屋の前に散らばった木っ端を熊手
で整理した。と、折からの斜め光線で小屋の一帯は神々が憩うようなカムイミンタラに変
わった。気持ちのよい空間、そして時間。………。                 

サクラが満開、ミズキが開葉直前だった。夕方、やわらかい日差しを浴びて至福の時が流れる。

フットパスを歩いてからしばし語らう。井阪さん
は森林関係のバリバリの公務員、川原さんは
わたしと同じ道のグリーンコーディネーターで
緑関係の仕事をされている。うしろで作業中の
長老がこのあと合流しまた賑やかになる。

もうトタンを張る直前まで来た。その夕刻。
独りで眺める。


かくして棟上げが終わる

手にした葉っぱをなんと見たのか

伐った薪を一輪車で運び何回か往復する
棟上げをすます                  5月14日(土) くもり 8℃

7時頃、作業のパートナーである長老Sさんから電話、「今日ログの棟上げするから出来
るだけ早く来て!」「合点だあ!」。てな訳で連日の遅い会合の疲れもものかわ、9時前
には現場で「おはようっす」。長老は今朝5時にここの足場を組んでおいたという。やる
時はやる、その段取りは昔から完璧だった。大工仕事は、道具、材料、段取りがものをい
うから、ここの正確さで仕事の速さが違う。逆にこうしないと無駄ばかり。いくつかのロ
グハウスをてがけてみてこれは本当に実感したことである。             

 さて、ログビルダーの端くれ(でもないか!)として多少「大工っけ」があると自認し
ていた自分だが、ほんのちょっとした足場に乗るだけで、今日は恐怖感があった。さび付
いた足場のパイプ、たわむ足場板の上で、チェンソーを使うことには緊張する。でも、2
時過ぎ、どうやらポスト(うだつ)が上がって梁を載せることが出来た。長老がとてもほ
っとしているのがわかる。良かった、良かったと述懐している。ほんとうに良かった。 

 昼前、キツツキさんファミリーが1年ぶりくらいでやってきた。1歳のユウキくんをダ
ッコして、まあ、ちょっとしたおじいちゃん気分を味わう。棟上げが終わった頃は、会社
のSさんが巡回の途中顔を出して久々の歓談。                   

 夕方、長老と別れたあと、薪ストーブの脇に横になると心地よい眠気が襲ってきた。30
分ほどウトウトして、林道に積んであるシラカバの薪を運んだ。近いうち札幌から薪割り
の手伝いにやってくるというTさんのオフィスに、このシラカバの薪を少しプレゼントす
るのだ。薪材として評価は高くないけど、オフィスのインテリアにはなる。      







足を割らない様に腰を入れる

集中して

成果が見える仕事ははまる。
そしてそれはヒーリングだ。      
息子が薪割りにはまる                  5月8日(日)くもり 13℃

雨があがった日曜日、寝ていた息子を起こして林に連れ出す。着いた現場はこの数日の間
に間伐材は運び出されており、ブルも新しい現場に移動してもうない。間伐材はほとんど
現場から出て行った。長老の段取りのおかげだ。                  

 小屋の前に散らばった薪材を一輪車で窓の下まで運び、そこで割ることにした。一輪車
のタイヤがぺっしゃんこだから、重たいことこの上ないが、交代で何十往復かして、とも
かく運び終えた。息子に薪割り斧の使い方を、特に安全面に力を入れて伝授。効率はフォ
ームをみてちょっとだけアドバイスしたら、大分うまくなった。「おれ、結構センスいいっ
しょ!」という。素性のいいナラなら多少太くても一発で割っている。「お父さん、この木、
割れにくいけどなんていうの?」「アズキナシ。カタスギともいうから割れにくいかもね」
「うん、ほんと、割りにくい!」。こんな会話となる。その後は独りで黙々と割っていた。
そんなこんなで小屋の窓から覗いたら、半分以上が片付いていた。どうやら、はまったよ
うだ。黙々と働く姿を見るのは、気持ちが良くこちらも楽しくなる。         

 久々だから、フットパスを歩く。「ここ、誰が歩いてるの?」「仕事に疲れた人。お父さ
んみたいに(笑い)。それから生きるがちょっと辛い人。鬱に悩んだる人なんか。あと、普通
の趣味人」。カラマツ林の道でいつもの黒いフンを見つける。これは誰の落し物か…。  
フンの長さは4cm


間伐材の片付け終わる                  5月3日 はれ 12℃

8時過ぎ現場にはすでに長老父子が働いていた。昨日は結局役所を休んで作業したとのこ
とで、もういくらも残っていない。わたしは小屋の増築の方の段取りをすることにした。
アカシヤ丸太の埋め込む部分をバーナーで焼付けし、廃油を塗る。11時ころから、父子
と娘婿のSくんの4人で柱を立て込む。首尾よくはまって押さえの板などを打ち付ける。
長老はてきぱきと作業をすすめ私らはその指図でてことなって動く。

 長老宅で昼食後、昨年のカラマツ林で風倒木を全幹集材する。運びきれなかった丸太が
転がっているのでブルの運転が面倒そうだ。それでも5本運び出して倒木の見える状態は
終わった。時間がみるみる過ぎる。冥想テラスでしばし目をつぶると、風がそよぎ、枝の
揺れる音がする。
ブルで引っ張ってきたカラマツ丸太          

陽だまりで防腐用の廃油を塗る

こんな風にまず柱がたった



材をブルのアームに載せこうして土場に運ぶ。
こんなに!というほどの山になる。作業の積み
重ねだ

間伐した材を運ぶ仕事はきつい           5月1日(日)  くもり  7℃

いよいよ間伐材を林から運びだす。長老が昨夜ブルを安く借り受け、今朝から早速開始。
8時半過ぎ現場に着くと長老はもうフル稼働。長男のY君もちょうど着いて一緒になる。
長老はというと5時に来て一仕事終えたという。2,3日でブルを返す約束だから段取り
万端怠りない。それが長老のやり方である。                    

 わたしは着替えに小屋に行ってまず改築の土台の基礎を埋める穴を掘る。深さ80cm
をふたつ。汗をかきつつ1時間で終えて、間伐材の運搬に合流する。材は重たい。昨日の
疲れも残っているから右腕は特にクタクタ。昼を除いてこのまま5時前まで続ける。3人
の仕事は結構はかどり、一日で半分近くまできた。                 

  途中、11時には札幌から約束していたYさんが来てくれて案内する。Yさんは里山を
セットした住宅をプランしている。ここと結構似ているロケーションだから、こちらもイ
メージしやすい。話もつながる。フットパスを一巡りしてから、田園と林の関係を見ても
らうため田んぼの方に出て車台ファームの方まで行ってみる。もう一度戻って平木沼へ。
新緑の5月と夏モードの6月、もう一度来訪すると約束して1時過ぎにお別れした。  
Yさんの記念写真




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